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 これは残酷なゲームです。
 欲望と狂気と小さな祈りのゲームです――――




人狼の館09





ねね「あ、あたし……?」

清正「官兵衛! 貴様、ふざけているのか!? 秀吉様が亡くなったんだぞ? おねね様が秀吉様を襲ったって言いたいのか!?」

官兵衛「人狼が獲物に特別な感情を抱いているのなら、可能性としては高い。犠牲者に近しい人間、縁者の多い人間をまず疑うのは妥当な判断だと思うが?」

「待ってください、だったら……!」


 言いかけたの手を、半兵衛が咄嗟に握り締めて止めた。
 半兵衛の真剣な表情を見つめ、は辛そうに顔を歪ませると、黙って俯いた。


官兵衛「そしてもう一つ、奥方を選んだ理由がある。人狼は獲物に投票できないと言う性質を利用して、人狼に踏み絵をさせるのだ」


 言って、官兵衛は左近が昨日書いた、縁者の表を一同に見せた。
 そして右端にも数字を書き込んでいく。


信長10 秀吉 ねね 三成 清正 正則  半兵衛 官兵衛 濃姫 左近 2
濃姫1 信長 1

秀吉9 信長 ねね 三成 清正 正則  半兵衛 官兵衛 左近 9
ねね8 秀吉 三成 清正 正則  半兵衛 官兵衛 左近 8
7 秀吉 三成 清正 正則 半兵衛 官兵衛 ねね 8

三成6 秀吉 ねね 清正 正則  左近 7
清正5 秀吉 ねね 三成 正則  6
正則5 秀吉 ねね 三成 清正  6

半兵衛4 秀吉 ねね 官兵衛  4
官兵衛4 秀吉 ねね 半兵衛  4

左近2  秀吉 三成 3

宗茂1 ァ千代 1
ァ千代1 宗茂 1

幸村1 くのいち 1
くのいち1 幸村 1

元就0 0
甲斐姫0 0


官兵衛「縁者の人数に相関関係はない。これは自分を元にした一方的なつながりだ。では逆に相手を起点に、自分が何人の人間の縁者となっているか。それを右に表した」

正則「お、おい、叔父貴が一番じゃねえか!」

官兵衛「信長様よりも秀吉様の方が多い。つまり、それだけ獲物になりやすいと考えて良いだろう」

幸村「なるほど。確かに序列が入れ替わりますね」

清正「待て! 昨日、左近も言ったはずだ。縁者である事と、獲物になる事は等しくはない。もし秘めた感情を抱いていたら、それは縁者かどうかなんて関係ないだろう!?」

官兵衛「承知の上だ。だが、形が見えないからこそ、より確率が高い場所を落とすべきだろう。人狼に踏み絵を踏ませ炙り出す」

三成「ふん、合理的な軍師の考えか。気に食わん……が、現状ではそれが最善か」

「待ってください。それなら……」

半兵衛「

「いいえ、言わせてください。なら、どうして私ではないのですか? 獲物になりやすさで考えるなら、縁者の数は私もおねね様も同じ八人です」

元就「そうだね、官兵衛の意見を聞かせてもらおうか」

ァ千代「まさか弟子なら信じられるなどと、言うのではないだろうな?」


 疑いをかけたァ千代へ、官兵衛は一瞬、軽蔑するような冷たい視線を向ける。官兵衛は下らぬ、と小さく呟いた。


官兵衛「この遊戯において私情を挟む事は禁忌。皆が納得する基準を元に、粛々と推し進めなければ、個人の感情によって破綻する。そして昨日、左近の縁者の説明には皆が納得を示した。故に私は今日はこれを元に処刑者を選ぶべきだと考える」

半兵衛「そうだね。俺も官兵衛殿の意見に同意するよ。何か明確な基準がなくちゃ、場が混乱するだけだ」

宗茂「そうか? 確かに一定の基準は必要だろう。が、その基準が間違っていたらどうかな?」

半兵衛「どーゆー事?」

宗茂「軍師のくせに分からないのか、坊や? 前提が間違ったまま頑なに推し進め、最後に間違っていたと気づくのは悲惨だ。時には臨機応変に動く事も必要だと思うが?」

半兵衛「そのくらい分かってるよ。でも、今は情報が少ない。情報が少ないのに、闇雲に疑いをかける方が危険だと思うけど?」

宗茂「ふっ。今日のところは、な」


 半兵衛と宗茂はしばしにらみ合ったが、それ以上言葉が交わされない事を確認し、官兵衛は説明を続けた。を今日の処刑者に選ばなかった理由、である。


官兵衛「を外した理由だが、これも確率の問題でしかない。秀吉様が誰かの獲物だったと考えた時、奥方とのどちらが候補として有力か? 夫婦と家臣という関係性を比べ、より疑いの強い方を選んだに過ぎぬ」

清正「それは……っ、だが、おねね様は……」

官兵衛「そして、私はへの疑念も捨てていない。明日、占い師や議論から有用な情報が得られぬのなら、は明日の処刑者とすれば良い。私はより確率の高い方を選ぶ。それだけだ」


 清正は苦悶の表情を浮かべている。だが、反論の言葉が出てこない。
 清正が何か言おうと口を開きかけた瞬間、その肩にねねが優しく触れた。


ねね「いいんだよ、清正。もう頑張らなくたって。官兵衛の言う事は私でも正論だと思うもの。それに……皆を守れるなら、あたし後悔なんてしないよ」

清正「おねね様……!」

ねね「もありがとうね。あたしを庇おうとしてくれたんだね? でも、そんな事しちゃ駄目。昨日言ったでしょ? 自分を大切にしなさいって。言う事ちゃんと聞かないと、お説教だよ?」

「おねね……さまっ……」


 優しく微笑むねねを前に、は泣き出してしまった。
 ねねが母親のような自愛に満ちた顔で、を抱きしめる。
 ねねはの身体を包み込みながら、小さく、ごめんね、と呟いた。


ねね「守ってあげるって言ったのに、うちの人もあたしも、皆を置いていく事になっちゃった。官兵衛……、うちの子達をよろしくね?」

官兵衛「……私は共有者としての役割を果たしているだけに過ぎぬ。人間が生き残る道を、ひたすら模索するだけとお答えしよう」


 官兵衛らしい物言いにねねはくすりと笑みを零した。
 そして、力強く頷く。
 投票の時が訪れた。


→ねね
半兵衛→ねね
官兵衛→ねね
三成→ねね
清正→官兵衛
正則→ねね
左近→ねね
ねね→元就
元就→ねね
宗茂→ねね
ァ千代→ねね
信長→ねね
濃姫→ねね
幸村→ねね
くのいち→ねね
甲斐姫→ねね


ねね「ごめんね? あたし自分には投票できないから……」

元就「分かっているよ。三成と私のどちらかが偽者なら、君は三成を信じるだろうからね」


 ねねは微笑んで、一同を順に見渡した。
 誰にも割り当てられていない小部屋へと、ねねはゆっくりと進む。その中には小さな踏み台と、丸い輪を作った荒縄が天井からぶら下がっている。
 それが何を意味するのか、誰もが知りながら口にはしない。
 まるで不吉な物を見るように、ある者は目をそむけ、ある者は睨みつけるようにぶらさがった縄の先を凝視した。
 その先にねねは首をかけ、トンッと軽く跳ねた。
 ねねの体重を受けて天井がぎしりと軋み――――やがてその音は静寂の中へ消えていった。


官兵衛「では、各々には部屋に戻ってもらう。時を進めなければな。最後に占い師の二人には、明日からの占いの範囲を指定させてもらおう。今は少しでも、暫定白を増やし狼の潜む場所を狭めたい。重複は手数の無駄だ」


 そして、官兵衛は三成と元就に占いの範囲を指示した。

<三成の占い対象>
濃姫 左近  正則 官兵衛 くのいち

<元就の占い対象>
幸村 宗茂 ァ千代 半兵衛 清正 甲斐姫


 二人の占い師が同意すると、皆ねねの死に衝撃を受けつつ、重い足取りで自室へと戻っていった。
 そして、最後の一人が自室へと戻ると、辺りは途端に暗くなり、夜が訪れたのだった――――




二日目・昼 終了

<生存者>
信長(暫定白)、濃姫、半兵衛、官兵衛(共有者)、、三成(占い師?)、清正、正則、左近、元就(占い師?)、宗茂、ァ千代、幸村、くのいち、甲斐姫

<犠牲者>
秀吉

<処刑者>
ねね





end


二日目昼、終了です。
最初の処刑者はねね。
この結果が何を示すのか、三日目に続きます。