欲望と狂気と小さな祈りのゲームです――――
人狼の館08
濃姫「もし、三成と同じ理由だと言うなら、なぜあの人を占わなかったのかしら? 縁者の人数は昨日の話から明らか。たとえたった一人の差異であったとしても、最大数を持つ人間を後回しにする理屈がわからないわ」
正則「あっ、確かにそうだぜ! 信長様は縁者が十人、叔父貴の縁者は九人だ!」
ァ千代「元就! どういう事だ!?」
今にも噛み付いて来そうな勢いの正則とァ千代に、元就は苦笑を浮かべて首を振った。
元就「二人とも落ち着いて私の話しを聞いてくれるかな? 確かに私は信長公ではなく秀吉を占ったよ。秀吉の縁者が信長公よりも少ないことは、当然承知していたさ」
宗茂「その理由を分かりやすく説明してもらいましょう。簡潔に」
ァ千代「手短に話せ! 貴様の話は冗長だ」
元就「やれやれ、立花の風神雷神は手厳しいね。では、一言で説明しようか。信長公にはね、縁者も多いが敵も多い。そういう事だよ」
「敵……? 和議は成ったのに?」
元就「今は外界の話とは切り離して考えてみようか。君たちも彼の苛烈な性格はよく知っているはずだ。だからこそ、人から恨みを向けられる事も多いだろう」
清正「待て! それじゃあ、俺たち縁者の中にも敵がいるって言いたいのか!?」
元就「それは確かめようがないよ。だが、信長公の苛烈な性格故、反感を持っている人間はこの中にもいるだろうという判断さ」
元就はちらりと半兵衛と官兵衛を見やった。
官兵衛は黙したまま、そして半兵衛はそ知らぬ顔をしている。
元就はすぐに視線を濃姫に戻した。
元就「だから信長公は秀吉よりも、この場における発言力は持っていないと私は判断した。確かに縁者の数は多いが、その中の大多数が秀吉傘下の人間だ」
左近「なるほど。信長公の縁者は一人を除いて、秀吉さんの家族や家臣、というわけですか」
元就「そう。だとしたら、この場では秀吉の方が信頼を寄せられやすいんじゃないかな? その推理の前では、縁者が一人少ないというのは大きな問題とは感じなかったんだよ。これが、私が信長公よりも秀吉を優先した理由さ」
宗茂「なるほど。より身近な人間の方が確かに信頼は得やすい」
ァ千代「了解した。が、その理由は個々の主観に基づくのではないか?」
元就「もちろん、印象の問題ではあると思うよ。しかし、少なくとも秀吉の縁者達は、確固たる理由がないのなら、秀吉の言葉に信頼を寄せるんじゃないかな。どうだろう?」
元就の双眸が、や子飼い、両兵衛たちへ向けられる。
「それは……、過ごした時間も長いですし」
正則「そ、そりゃあ叔父貴だしな」
半兵衛「ま、当然でしょ」
それを耳にして、信長が可笑しそうにくつくつと笑みを零す。隣りの濃姫も変わらず、妖艶な笑みを浮かべていた。
信長「くくっ。で、ある、か」
濃姫「そう。敵が多い、その事だけは否定しないわ」
だが、元就に肯定的な場の中で、三成だけは鋭い視線を向け威嚇するように元就を睨み付けていた。
三成「ふん、ものは言い様だな。人外風情がよく舌の回る……。そもそも秀吉様を占い、人間の判定を出すなど、貴様が人狼ならば当然の結果だ。貴様自身が秀吉様を襲ったのだからな」
元就「おや、自分を本物と仮定しての推理は感心しないね。もし私が人狼ならば、それこそ秀吉を占う必要はないんじゃないかな? そんな事よりも仲間に白判定を出して安全地帯を確保するか、人間に白判定を出して信頼確保をする方が賢いと思うよ」
三成「なに?」
元就「君こそどうして秀吉を占わなかったのか不思議だよ。縁者の数は明確だが、君だって信長公と秀吉を比べれば、どちらに直接的な縁者が多いか理解できたはずだ。なのに何故、秀吉を占わなかったんだい?」
三成「それは説明した通りだ。縁者の数を見れば序列は明確だろう」
元就「そう、たった一人、ね。秀吉の子飼いである君が、そのたった一人を無視せず、信長公を占った。その事こそ私は不自然でならない。まるで……、秀吉が初めから死ぬ事を知っていたみたいだ」
三成「なんだと!?」
三成が丸茣蓙を蹴り飛ばす勢いで立ち上がった。対する元就も、穏やかだが挑むような視線を向けている。
二人の占い師が対峙するその間に、左近がまあまあと割って入った。
左近「占い師同士の議論は水掛け論にしかなりませんよ。お互い相手が偽者だと言うに決まっている」
半兵衛「そうだね。それより話を先に進めよう。そろそろ……今日の処刑者を選ばなくちゃいけない」
一同の顔に緊張が走る。
限られた情報の中で処刑者を決められるのかと皆が同様する中、沈黙を続けていた官兵衛が、私に策がある、と声を上げた。
官兵衛「まず、説明の前に一つ告白がある。私は共有者だ」
「えっ!?」
官兵衛「もう一人の共有者は生存している。名前はまだ明かせぬ」
正則「ちょっ、何でだよ!」
清正「よく考えろ、馬鹿。共有者と言うのは、人間の証明が出来る者だという事だ。つまり、人狼にとっても格好の獲物となる。二人も出現したら、狩人が守りきれないだろう」
くのいち「それにもし偽者の占い師さんが、偽の占い結果を出したら、名乗り出て潔白を主張できるし。言葉の罠ってとこかな?」
幸村「なるほど。では、官兵衛殿の言葉は人間寄りの発言として、信用して良いという事ですね」
濃姫「対抗者がいないなら、今の段階ではそうなるわね」
濃姫の対抗者という言葉にわずかな沈黙が流れたが、誰も共有者を名乗り出る者はいなかった。それを確認し、官兵衛は言葉を続ける。
官兵衛「共有者である私、二人の占い師、暫定的に白の判定のある信長公を除いても、ここには残り十二人いる。その中から無作為に選ぶのは得策ではない」
甲斐姫「で、でも、じゃあ、どうやって決めろっていうのよ! 直感? そんなの馬鹿げてるわよ!」
官兵衛「その通り。馬鹿げている。故に私は、今日は奥方を処刑すべきと提案しよう」
皆の顔に驚きが走った。視線がねねに集まるが、その中でも一番驚いた顔をしているのは、ねね本人だった。
end
官兵衛殿の共有者カミングアウト。
そして、ねね吊りの提案が出たところで、次回に続きます。
ところで、白とか白判定とか言ってますが、
白=人狼じゃない、黒=人狼という意味でこのゲームではよく使われる言葉です。
説明不足ですみません……
ただし、“人狼じゃない”の中には狂人や妖狐も含まれますのでお忘れなく。