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『規律 その捌』

 一人の人狼ごとにに、必ず一人の獲物が存在する。
 獲物とは人狼が己こそが喰らってやりたいと、深く欲望を抱く相手である。
 それは、恋慕、欲望、信頼、憎悪といった強い感情が起因する。
 人狼同士はどの人狼がどの獲物を狙っているか情報を共有できる。
 複数の人狼が同じ獲物を狙う事も有り得る。

 人狼は己こそが獲物を屠りたいと欲するため、獲物に対して投票する事は出来ない。
 ただし、獲物を実際に喰らえたかどうかは、最終的な勝利条件には影響しない。


『規律 その玖』

 投票は役割に関わらず、何人にも強要されない。
 ただし、過半数以上が投票を行っている状態で一定時間まで投票を行わなかった場合、その人物の票は任意の一人に自動的に投じられるものとする。




人狼の館06





「獲物、ですか。やっかいな決まりですね、こいつぁ」
 左近は頭をがりがりとかきながら、あやかしが残した八枚目の規律の紙を眺めた。
「まさに疑心を更に煽るために、用意したとしか思えない」
「どういう事だ?」
「この感情ってのが厄介なんですよ。ここに集められた十七人は、平等な関係じゃあない。それを考慮すると、獲物ってのは把握できそうでなかなか難しいんですよ」
「左近……。もっと分かりやすく話せ」
 三成の不満そうに眉根をしかめた顔を一瞥し、左近は苦笑を浮かべた。そうですねぇ、と考えた後、規律の紙を裏がえし、十七名の名を記した表を書き上げた。

信長10 秀吉 ねね 三成 清正 正則  半兵衛 官兵衛 濃姫 左近
濃姫1 信長 

秀吉9 信長 ねね 三成 清正 正則  半兵衛 官兵衛 左近
ねね8 秀吉 三成 清正 正則  半兵衛 官兵衛 左近
7 秀吉 三成 清正 正則 半兵衛 官兵衛 ねね

三成6 秀吉 ねね 清正 正則  左近
清正5 秀吉 ねね 三成 正則  
正則5 秀吉 ねね 三成 清正 

半兵衛4 秀吉 ねね 官兵衛 
官兵衛4 秀吉 ねね 半兵衛 

左近2  秀吉 三成

宗茂1 ァ千代
ァ千代1 宗茂

幸村1 くのいち
くのいち1 幸村

元就0
甲斐姫0

「なんだこれは」
「そうですねぇ。さしずめ、“縁者”とでも呼びましょうか」
 一同は左近を中心に、円を作って表を眺めた。
「横の数字は、十七人中何人の縁者がいるか、を表してます。ま、縁者ってのは主従関係や夫婦、同僚と言った関係性だと思ってください。ただ皆顔見知りではあるので、知己は省いています。たとえば元就さんと立花夫妻、殿と幸村、みたいな感じですね」
「ふむ」
「縁者をその大名の下に集った家臣、とすると偉くなるほど縁者が増えます。つまり、俺にとっての直接の上司は殿なわけですが、殿の上は秀吉さん、秀吉さんの上には信長さん、ってなわけですな。なので、この面子では信長さんが一番縁者が強いって事になります」
 なるほど、と一同が納得する反面で、複雑そうな表情をしている者が居た。縁者のいない、元就と甲斐姫である。
「ま、そういうわけで、同勢力の者が居ないおふた方はここでは縁者は0って事ですね。所々、疑問を感じるかもしれませんが、おおむね認識としては間違っていないでしょう。で、問題はここからだ」
 左近はそう言うと、再び紙を裏返した。『規律 その捌』の内容が晒される。
「まあ、曖昧になってしまっていけないんですが、この強い感情というのはなかなか把握し辛い。尊敬とか信頼とか、夫婦間の愛情とか、そういう見て分かりやすいものならいいんです。だが、恋慕だの憎悪だの、そんなものをおおっぴらにしている奴がいるかい?」
 ここにいるぞ、と官兵衛が半兵衛をちらりと見やって言ったが、半兵衛が顔をしかめるだけで、他の面子はそれを無視した。
「つまり……秘めた気持ちまで考慮に入れないと、人狼の獲物は分からないという事?」
 甲斐姫の問いに、左近は大仰に頷く。
「ま、そうです。ただそうは言っても、顔見知り程度の知人に強い憎悪を抱いてる人も少ないでしょう。もちろん、当事者間で何があったかなんて余人は知らぬ事ですが、それでもあるかないか分からない縁を探すより、こうして明確になっている線を洗った方が分かりやすい」
「えっとつまり……人狼の獲物は、縁者の中から選ばれる可能性が高いということ?」
「ええ、可能性的には高いと思いますね」
「だったら、あたしと元就さんはかなり人狼の確率が減るんじゃないの?」
「いや、残念ながらそういう証明にはなりません。獲物を喰らうのは最終的には、人狼の勝利には関係ない。べつに狙ってない人間だって喰えちまうんです。それにさっきもい言ったように、誰もアンタの心の内まで見透かせない。……ただ、今後人狼の可能性を推理する時に、“人狼は獲物に投票できない”という事実は、事実として考慮した方がいいと思いましてね。後からこういう話をすると公平じゃあないんで、今日のうちに話をさせてもらいました。何か異論は?」
 そう左近が問いかけると、一同は皆同様に同意を示した。
 満場一致の賛同を得られて左近は微笑む――――が、すぐにそれは暗澹たる陰に覆われた。
「さて、知るべき情報も共有できたところで……。そろそろ、ですかね」
 誰ともなく壁に穿たれた明り取りの窓を見やる。差し込む光は先ほどよりも紅い夕焼けのような色に変わっていたが、それが暗みを帯びる事はなかった。
 時間が昼で止まっている。彼らが眠りについた時、初めて夜が訪れる。
「やるしか……、ないじゃろ。皆で勝利を掴むんさ」
 秀吉の呟きに皆はそれぞれに頷き、一人また一人と、緊張した面持ちで自分に与えられた個室へと向かった。
 そして誰も居なくなり――――狂気の夜が訪れる。




end


獲物と縁者は、オリジナル要素です。
せっかく戦国舞台なので、キャラ設定と活かしたいなぁとは思ったのですが、
獲物という存在を考えた時、関係性が曖昧なので、
誰が誰の縁者と十七人に認識されているかを明確にしました。
ただ左近が言うようにこれは目安の一つでしかないので、
絶対のルールにはならない事をご留意ください。
そして、投票をせずゲームを滞らせるさせる者が現れないよう、
規律その9を用意しました。
これも実際のゲームでは、退場させられる部類ですね。
さて、次回より本格的にゲームが始まっていきますよ〜