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  『規律 その弐』

 この館では時間は意味を持たない。
 条件を満たすことにより、夜と昼が交互に繰り返して進む。
 夜が訪れる条件は以下の二つを満たす事である。
 一、その日の投票により、生存者の中から一人を処刑すること。
 二、各人が自室へ戻り、眠りにつくこと。


『規律 その参』

 この館では以下の三つの行動によってのみ、殺す事が出来る。
 一、一日に一度だけ投票を行い、最も人外と疑わしき者を処刑する。
 二、毎晩、人狼は任意の一人を選び、襲撃して喰い殺す。
 三、占い師が妖狐を占い、呪殺する。

 ただし、投票によって選べる処刑者は、一日につき一人のみである。
 投票が同数であった場合は、同率二位に絞り再投票を行う。
 また、人狼の人数に関わらず、一度の襲撃で喰い殺す事が出来る人間は必ず一人だけである。




人狼の館03





「殺……し合い?」
 の呟いた言葉は、静寂の中にむなしく響くだけだった。
 あまりにも荒唐無稽すぎる。こんな謎のあやかしの愚かな遊びに、なぜ付き合わなければならない。なぜ互いに騙し合い、殺し合わなければならない。
 だが――――の憤りを裏切るように、誰もそれを否定しようとはしなかった。
「まさか……あやかしの遊びに、乗るつもりなのですか!?」
 一同の顔を順々に見やり、は声を荒げる。沈黙は肯定だ。だが、には信じられなかった。
「分かりません。規律 その壱という物が真実だとして、それに私たちが従わなければ理由はない。もし人狼や妖狐なんて言う役割が与えられても、さっさと告白してしまえばいいし、仮に告白されなかったとしても“人間”の数の方が多いのでしょう? 単独行動は避け、皆で一緒にいればいかに人外といえど、退けられます!」
 そもそもこの館の中では、何者をも害する事は出来ない。ならば、人狼や妖狐などという荒唐無稽な役割を与えられても、彼らは何も出来ないはずだ。
 だが――――を裏切るように、賛同の声は上がらなかった。
ちん。あたし達ね、ちんが眠っている間、ずっとその事を話し合って来たんだよ。ちんは……自分がどのくらい眠ってたか分かる?」
 くのいちだった。いつも明るい彼女の陰のある表情に、は不安になる。
「え? 半日くらい、かな」
「ううん。少なくとも最初に起き出した人たちの主観では、四十八時間以上眠ってた」
「丸二日も?」
「う……ん。二日って言うのかなあ? なんて言うか……あたし達がそのあやかしの言っている事を信じつつあるのはね、ここが物凄く変な場所だって分かってるから。おかしいんだよ、ここ。ずっと……夜が来ないんだ」
「え……?」
 は咄嗟に壁に穿たれた明り取りの窓を見た。弱弱しいが窓から漏れる光は、まさしく太陽の光だ。夜が来ないとは、ずっとこの光が閉ざされなかったという事だろうか。
「そんな、有り得ないよ。だとしたら、あの光が太陽のものじゃないと思うしか……」
「ま、そうだよねえ。あたしたちも十分それは疑ってる。どこか時間の感覚を狂わせるような場所に、閉じ込められてるって可能性もあるし。でも、それがどっちにしろ、やっぱり現実じゃ考えられない事なんだよね。壁が壊れなかったり、人を傷つけられなかったり」
 それは確かに同意せざるを得ない。うまくあの光を偽ったとしても、幸村と半兵衛の攻撃が一切通じなかった事は説明できないのだ。
「で、さ。あやかしが言うにはある条件を満たさないと夜が訪れない、らしいんだよね」
 くのいちはそう言って、官兵衛の手から二枚目の紙を受け取った。それをそっとの前に差し出す。その紙には『規律 その弐』と記されていた。
『この館では時間は意味を持たない。
 条件を満たすことにより、夜と昼が交互に繰り返して進む。
 夜が訪れる条件は以下の二つを満たす事である。
 一、その日の投票により、生存者の中から一人を処刑すること。
 二、各人が自室へ戻り、眠りにつくこと。』
 は頭上に疑問符を上げた。答えるようにくのいちが身を乗り出す。
「つまり、この紙が言ってる事が本当だとすると、この二つの条件を満たさないと夜が訪れないってこと。つまり、さっきちんが言ってた、みんなで一緒にいるっていうのはあやかしによって封じられてるんだよ」
「でも……夜が来なければ、誰も殺されなくて済むんじゃないの?」
「当面は、ね。でも、調べた感じじゃこの館には食べ物もなくて、ちょっとの水しか見つかんなかった。篭城なんてできっこないよ。この人数だと、たぶんもって数日?」
 は納得した。こんな下らない遊戯に興じなくても、生きるのはぎりぎりという事だ。
 水を巡って争うなんて事になったら、それこそあやかしの思う壺だなのろう。
「……。じゃあ、この“処刑”というのは?」
 尋ねると、くのいちは言いにくそうに口ごもってしまった。
 隣りに座った甲斐姫が勇気付けるように、くのいちの肩に手を置く。
「規律のその参よ。規律その参によれば、この館の中で三つ人を殺す方法があると言うの」
「殺……す?」
「あくまで、あやかしとか言うのが勝手に言ってるだけよ。でも、一応あんたにも説明しておかなきゃ。その方法は、投票によって誰か一人を処刑者に選ぶ事。人狼が毎晩、誰かを選び襲撃する事。占い師が妖狐を占う事の三つよ」
「えと……話がよく飲み込めないんだけど」
「だからね、宗茂様も言ってたじゃない。あやかしは私たちに騙しあいと殺し合いをさせたいのよ。で、みんなが生き残って生還するには、その人狼と妖狐っていうのを殲滅しなきゃいけないの。でも、直接的に排除する事はできない。あくまで、出来るのは……」
「投票によって誰か一人を処刑者に選ぶということ?」
「……そうなるわ」
 はぞくりと背筋を駆け巡る悪寒に肩をすくめた。
 そんな事、出来るはずが無い。処刑する? この内の誰かを、皆で一丸になって私刑に処すと言うのか。
「そんな事……っ!」
「気持ちは分かるわよ! あたしだって、ずっとムカつきっぱなしなんだから! でも……話を総合するとそういう事なの。あたし達が生き残るには、人狼や妖狐と疑わしい人間を……毎日一人ずつ処刑していくしかない」
「そんな」
 はふるふるとかぶりを振った。本当にそんな方法しかないのだろうか。本当にそんな残酷な方法でしか生き延びれないのだろうか。
「待って。じゃあ、この中にすでに人狼や妖狐の役割を与えられた人間が居るって事? だったら名乗り出てもらえばいいよ! そしたら、誰も死なずに……」
 言いかけて、ははっと息を飲み込んだ。
 わかった? というように、甲斐姫が哀れむような眼差しを向けてくる。
「まさか……でも、そんな」
「あたしだって信じられない。でも……あんたが寝てる間、誰も名乗り上げなかった。つまり……あっちはもうやる気ってことよ」
 は愕然とし、両手をぺたりと床に押し付けた。
 確かに規律の壱を見れば、甲斐姫たちがやる気だと判断した理由ももっともだった。
 人間が生き残るとはつまり、人狼と妖狐の役割を与えられた人物は死ぬという事だ。人間は勝利の暁には、死者をすべて蘇生することが出来る。だが――――それは人間に限定しての話。人狼や妖狐は含まれない。つまり、より多くの人間を生かすために、不幸にもその役割を与えられた人物を見殺しにするという事なのである。
 だが、だとしたら、人狼や妖狐は、もはや仲間を屠る事に戸惑いはないのだろうか。人としての良心は残っていないのだろうか。
「無駄な期待は抱くな」
 の一縷の望みを絶つように、ァ千代が強張った表情で厳しい声音を上げた。
「その人外どもに当てはめられた者に、もはや人の心が残っているなどと思わぬほうが良い。名乗り上げぬ以上――――奴等はいつでも私たちを喰らう気だぞ」
 は縋りつくような思いで、一同の顔を見やった。
 誰かに否定して欲しかった。そんなはずは無い。考えればきっと良い案は浮かぶ。だから人を殺す事を前提に考えるな、と。
 だが、そんなを嘲笑うかのように、皆一様に口を噤み押し黙っていたのだった。




end


暗い。ゲームが始まっていないのに、もう絶望感が満ち満ちてる!
さて、篭城されては話が進まないので、
物理的にゲームを進めなければならない状況を用意させてもらいました。
実際のゲームでは、たぶんゲームの進行を妨げる人間は、
管理人より退場させられる事になるんでしょうね。

そして、占い師とか呪殺とか良く分からない単語が出てきましたが、
役割説明は次回に。