館の中には十七人。
七人が村人、一人は占い師、一人が狩人、一人が霊能者、一人は狂人で、二人は共有者、三人が人狼、そして一人が妖狐である。
人間は人外をすべて殲滅すること。
人狼は妖狐を退け、この館の過半数を占めること。
妖狐は人間と人狼が勝敗を決するまで生き残ること。
勝利の暁には人間には死者の蘇生を、人外には永遠の魂と明けぬ夜を約束しよう。
人間よ知恵を振り絞り生き延びよ。
人狼よ欲望のまま獲物を屠れ。
妖狐よ誰よりも狡猾たれ。
人狼の館02
は両手で口元を覆い、眼前で繰り広げられた凶行をじっと見つめていた。
否――――凶行に至っていない。半兵衛の放った羅針盤は誰一人傷つける事はなかったのだ。
「おい、半兵衛! 死なねぇからっていきなり何しやがる!」
羅針盤を叩きつけられた正則が、目を吊り上げて叫んだ。だが、確かに刃をつき立てられたはずのその身体は、血の一滴すら流していなかった。
「どういう事……?」
まじまじと正則の身体を見やる。正則だけではない、羅針盤に振り払われたはずの皆が――――そう、半兵衛の眼前に座るまでも一切の衝撃を受けていなかったのだ。
触られた感覚すらなかった。だが、確かに半兵衛の羅針盤は正しい軌道で放たれたはずだ。
「これも……壁と同じなのですか?」
驚きの表情のまま尋ねると、半兵衛は神妙な表情で頷いた。
つまり、この館の中の物へは一切影響を与える事が出来ない。それは館の中にいる、たちですら同様なのだ。
「何故? 私たちを殺さず捕えるために……?」
が疑問を口にすると、今まで黙って目を伏せていた濃姫がくすりと笑みを零した。
「違うわ。あやかしは私たちを嬲り殺しにしたいのよ。しかも、私たちに殺し合いをさせて、ね」
「え? それってどういう、」
いいかけた瞬間、ばしんと大きな音がの言葉を遮った。壁際にもたれていた三成が、鉄扇で手の平を叩いた音だった。
「迂闊な表現は気をつけてもらえませんか。唯でさえ皆、気が立っている。むやみに不安を煽るのは、あやかしの思う壺だ」
「あら、最も分かりやすい言葉であやかしの目的を教えてあげただけよ? 物事を曲解する方が、思う壺ではないの?」
「……さっそく、自分の信頼獲得ですか?」
三成の目がぎろりと濃姫を睨みつけた。対する濃姫はそんな態度を嘲笑うかのように、妖艶な笑みを浮かべる。
その合間に割り込むように、左近が慌てて身を乗り出す。
「殿。さすがに今の発言はいただけません。仲間を疑うより、まずは状況の把握が先ですよ」
左近に諌められ、三成はちっと舌打ちを打ったが、それ以上濃姫の言葉を追求しようとはしなかった。
「ねぇ、つまりどういう……?」
の不安を和らげようと、左近が苦笑めいた笑みを浮かべる。
「ま、聞いた通りなんですがね。そのあやかしと言うのは、どうやら俺たちを趣味の悪い遊びに巻き込みたいらしい。それがつまり……俺たち十七人で殺し合いをさせる、というものなんです」
はぎょっと目を見張って、左近の顔に見入った。
いつも余裕しゃくしゃくといった口ぶりだが、左近がつまらない嘘をつくような人間ではない事はも良く知っている。それに周りの人間も、まるで肯定するように押し黙ったままだ。
「殺し合いって……でも、この館の中では、誰も傷つけられないのではないのですか?」
の困惑に、一同は押し黙った。まるで口にする事さえ不吉だとでも言うように口を噤み、やがて官兵衛がの前に紙の束を出した。
「これがあやかしの遊びの規律だ」
それだけ告げ、一枚目の紙をに見せる。
『館の中には十七人。七人が村人、一人は占い師、一人が狩人、一人が霊能者、一人は狂人で、二人は共有者、三人が人狼、そして一人が妖狐である』
「何ですか……?」
確かに今、この場には十七人が集まっている。だが、その後の言葉は意味不明だ。謎賭けだろうか。
官兵衛はの問いには答えず、その紙をに手渡した。
規律 その壱、と記されたその紙の続きにはこうある。
『人間は人外をすべて殲滅すること。
人狼は妖狐を退け、この館の過半数を占めること。
妖狐は人間と人狼が勝敗を決するまで生き残ること。
勝利の暁には人間には死者の蘇生を、人外には永遠の魂と明けぬ夜を約束しよう。
人間よ知恵を振り絞り生き延びよ。
人狼よ欲望のまま獲物を屠れ。
妖狐よ誰よりも狡猾たれ。』
やはり内容は理解できない。これがこの館から出るための条件らしき事は分かるが、人狼や妖狐と言った妖怪が途端に意味を曖昧にさせている。
「もういいだろ」
二枚目を見せようとした官兵衛を遮って、清正が苛立たしげに声を上げた。
「お前が起きてくる前に、俺たちは館の色んな場所からその紙を見つけた。おそらく、あやかしが用意した俺たちへの指令と考えて間違いないだろう。俺たちはすべての紙を突き合わせ、あやかしが俺たちに何をさせようとしているのか理解した」
「それが、悪趣味な遊び?」
「そうだ。村人や占い師というのは、俺たちに与えられた役割だ。そして役割に沿った、目的がそれぞれに存在する」
は眉根をしかめ、再び官兵衛に渡された紙を見やった。
ここにいるのは十七人。それぞれに役割が与えられ、各々の目的を持つ――――
「あ……」
「さすが軍師と言ったところか。理解が早くて助かる」
そう呟いた宗茂の言葉が、どこか遠くに聞こえた。いつも風の様に爽やで余裕のある宗茂の顔が、妙に曇って見えて――――
「俺たちはこの内のどれかに、任意で役割を与えられる。そして役割に沿った目的を果たすために――――騙し合い、殺し合いをさせられるんだ」
end
一応、公平にしようと大勢に喋らせたいんですが……
うーん、難しい。
さて、「人狼の館」では妖狐も登場するので、三勢力で戦います。
各役割についての説明は追々してきます〜