この話は七日目の昼に、清正へ投票した先の物語です。
ネタバレとなりますので、未読の方はまずそちらを読まれる事をお勧めします。
眩しい光。柔らかな光。包み込んで、そのままどこかへ連れ去られてしまいそうな、少しだけぞっとする怖さを孕んだ神聖で厳かな光。
ゆっくりと目を開くと、真っ青な空が広がっていた。
たなびく雲の合間の縫うように、雁の群れが列を作って飛んでいく。
三成はしばらくそれをぼけっと眺めると――――慌てて飛び起きた。
一休みするつもりで横になっていただけなのに、いつの間にか寝入っていたようだ。傍らに置いた薪の束を背負い、大慌てで屋敷への帰路を辿る。
裏口から飛び込むと同時に、ねねがこらっ! と三成を怒った。
「もう、どこまで行ってたの。お昼ごはん、冷めちゃうでしょう!」
「も、申し訳ありません、何かヘンな夢を見て……」
「こらっ、言い訳しないっ!」
厨房に膳を取りに来ていた正則が、三成が叱られるところを見て、けけけと笑っている。笑うなと喰ってかかりそうになるのを、が間に入ってまあまあと宥めた。
「どんな夢見たの、三成?」
「頭デッカチの夢だろぉ? どーせつっまんねぇ夢に決まってんぜ」
はっ、と鼻を鳴らす正則を三成は忌々しそうに一瞥してから、先ほど見た夢の事をぽつりぽつりと語った。
どこか得たいの知れない館に集められ、一人ひとり毎日人が死んでいく夢。
その中にはや正則もいるが、いまより少しばかり大人の姿で夢に現れた。
集められた十七人の中には人狼や妖狐といった人外がおり、人間たちは議論を重ね、毎日疑わしき者を始末していくのだ。
「なんだか怖いね」
と、が己の肩を抱くようにして言った。正則はやはり、つまんねーと言って呆れている。
「夜に来ると分かってんなら、猟銃でも用意して待ち伏せすればいいじゃねぇか」
「そう簡単な話ではないのだ。その館には幾重もの規律に守られており、部屋に戻ると気絶するように寝てしまうのだよ」
「なら、部屋に戻らなければいいじゃねぇか。お前の夢ん中の俺たちは、んな単純な事もわかんねぇくらい馬鹿だったのか?」
そういう問題ではないのだが、どうせ言葉にしても馬鹿には分かるまいと三成は説明を諦めた。夢の中では、それが当然だと感じていた。毎日、一人処刑し、一人喰われ……
だが、こうして目が覚めて考えれば、何とも馬鹿馬鹿しい仕組みだ。それこそ監視をつけて夜を待てばいいのだし、なぜ武器を用いなかったのか理解できない。
どうせ――――夢の話だ。語ったところで意味はない。
そう思い、三成は二人を促して、昼食の膳を並べた広間へ向かった。
が、
「?」
正則の隣りに見ず知らずの少年が座っている。
「誰だ、お前は」
声をかけると、少年は変なものでも見るような顔で、三成の顔を見た。
「ああ? 何いってんだよ、三成。俺の顔を忘れたのか?」
そんな事を言われても、見覚えなどない。
怪訝に思っていると、もう一人、見知らぬ顔の男が三成の対面に座った。細面の優男で、穏やかな顔をしている。
その男が、官兵衛の隣りに座り、あれやこれやと策の話をしている。
誰だ、この男は――――
三成は混乱しつつ、何事もなく風景に溶け込んだ見知らぬ二人を注意深く見つめた。そして、
「こらっ、清正! たくあん残しちゃだめでしょう!」
「半兵衛様、お代わりいかがですか?」
何の違和感もなく声をかけるねねとに、驚きの眼差しを向ける。
コイツが――――清正? 半兵衛?
違う、と心のどこかで否定する。俺はこんな奴は知らない。俺の知る清正と半兵衛は、こんな顔ではなかったはずだ。
意固地で度々意見のぶつかる幼馴染。子供のような軽い口調で、飄々と大それたことをやってのける無邪気な軍師。
それが……自分の知っている二人だ。
なのに、何故。二人はどこへ行ってしまった?
それに――――殿、と自分をそう呼ぶ、誰かがいたような気がする。いつも言葉少なな自分の意を汲み、もっとも頼りにしていた誰かが。
「うっ……」
ズキリと痛むこめかみを押さえ、三成は夢の続きを思い出す。
毎日、一人ひとり死んでいって、最後はどうなった?
最後、人間か、人狼か、正則の言葉に決断が委ねられ――――そして。
「清……ま、さ……」
ぽたり、と三成の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
夢の中の光景は曖昧で、部分部分にしか思い出せないのに、悲しくて仕方がない。
何故だろう。夢の中の清正の顔を、三成はもう、思い出せないというのに……
「おい、三成。大丈夫か、お前?」
声をかけて来た清正に、三成は戸惑った表情を見せた。何でもない、と小さく答えるのが精一杯だった。
悲しくはない。何も失っていない。
そのはずなのに、何故心にぽっかりと穴が空いたような心地になるのだろう――――
「三成、大丈夫?」
心配そうに声をかけて来るの顔を、三成は縋りつくような思いで見上げた。
そうだ、が、いる――――
夢の中の自分が何に変えても守りたかった存在。夢の中の自分が、一度失い、絶対に取り戻したいと願った……唯一の。
「俺は……お前を取り戻せたんだな?」
問いかける。
夢の出来事など知らないは戸惑うばかりだったが、握り締めたの手が暖かくて、何故か無性に泣きたい心地になった。
何を失ったとしても手放したくないと、きっと夢の中の自分も思ったはずだ。
清正と半兵衛を失っても、大切だった誰かを忘れても――――きっとだけは、失くしたくなかった。
だから、後悔などするはずもない。
がいて、正則がいて、ねねが、秀吉が、官兵衛がいて――――そして、清正と半兵衛もいる。
これが俺の平和だ。大切な、守るべき、日常だ。
そしてこの手の先には、今までも、これからも守るべき存在がいる。
三成がそう心の中で呟くと、徐々に夢の中の誰かの顔は見えなくなっていった。
人狼の館・青 蒼穹の下で
七日間・昼 終了
<生存者>
三成(占い師?)、正則(暫定白)、元就(占い師?)、くのいち(共有者?)
<犠牲者>
秀吉、信長、宗茂、官兵衛、半兵衛、
<処刑者>
ねね、濃姫、ァ千代、左近、甲斐姫、清正
<呪殺>
幸村
七日目・夜 終了
<犠牲者>
くのいち
八日間・昼 終了
<生存者>
三成(占い師?)、正則(暫定白)
<犠牲者>
秀吉、信長、宗茂、官兵衛、半兵衛、、くのいち
<処刑者>
ねね、濃姫、ァ千代、左近、甲斐姫、清正、元就
<呪殺>
幸村
遊戯が終了しました。
人間勢力の勝利です。
end
人間ENDでした。
人間が勝利したのに、あんまりハッピーエンドじゃない……
それほど影響ないですが、最後の犠牲者はくのいち。
最後まで大トロは正則説得を続けた、という事で。