この話は五日目の昼に、くのちいへ投票した先の物語です。
ネタバレとなりますので、未読の方はまずそちらを読まれる事をお勧めします。
宙に浮くように前後の感覚がない。意識と身体が乖離してしまったような心地だった。
「ここ、は……?」
紅い曼珠沙華の花が咲き誇る、そんな場所にいた。夜明け前のように辺りは薄暗いのに、それが紅いと感じ取れるのは、蛍のように辺りをただよう虫が光源となっているからだろう。
「なに、が、あったの……?」
は微かに痛む頭を手で押さえ、前後の記憶を手繰ろうとあの館での出来事を思い出す。
残酷な遊戯だった。
信じていた人を、愛する人を、毎日一人ずつ失い、毎日一人ずつ処断しなければならなかった。
五日目。あの館で目覚めてから五日目の昼に、は決断を迫られた。
現れた二人の共有者の真偽を見極めなければならなかった。くのいちか、左近か。その二択を迫られ――――はくのいちを選んだ。
そして、明くる日。六日目の昼。正則が無残な姿で発見された。
「そう……そうだった。正則が襲われて、それで……」
ゆっくりと記憶が蘇る。
くのいちを五日目に処刑した事により、六日目の処刑者はほぼ確定していた。くのいちと組に分かれていた三成が、槍玉に挙げられたのだ。
「それ、で……私……」
三成は必死に自分が人狼ではないと訴えたが、その言葉はもはや意味をなさなかった。
くのいちを選んだ時点での決断は決まっていた。
『ごめん』
呟いて、愕然とする三成に票を投じた。
だが、票の結果は――――
『なんで……なんで、こんな事になってるのよ!?』
響く甲斐姫の悲鳴。
の票と三成、甲斐姫、幸村の票を除き、それ以外の全員が甲斐姫に票を投じていたのだ。
意味がわからなかった。今までの議論で甲斐姫に票を投じるなどという話は一度として、されなかったはずだ。
驚愕する四人を嘲笑うように、元就がくつくつと笑い出した。
『分からないかい? 何が起こったのか』
『元就……公?』
脅えるに向かって、元就はにっこりと微笑んだ。心配しなくていいよ、との身体を抱き寄せて、耳元で囁く。
『は私が、守ってあげよう』
『え……?』
瞬間、ぞくりと悪寒がを襲った。
守る? 何を言っているのだろう。一体、誰から守ると言うのだ。人狼から? 妖狐から? 元就は占い師なのに――――?
『あ』
声を漏らした瞬間、はすべてを理解した。
元就の笑顔がひどく禍々しく不吉なものに映る。
『そんな……あ、あぁ、いや……』
逃れようと元就の腕を振るほどこうとするが、その腕はがっちりとに絡み付いて離れない。助けを求めるような視線を向けたが、誰もに助けの手を差し伸べない。
左近や清正はにやにやとそれを眺め、三成や甲斐姫は愕然とその場に立ち尽くしていた。
『あ……ああ、いや、いや……』
は首を振ってそれを否定した。だが、逃れようのない現実は、確実な足取りでに歩み寄る。
『お終いだよ。。人間は負けるんだ。この意味がどういう事か、わかるね?』
『そん、な、そんな……』
『大丈夫。甲斐姫を吊るしあげたら……すぐ君の番だよ』
縋りつくようなの目に、元就は残酷な現実を叩き付けると高らかに声を上げて笑った。
笑い声に狂気が混ざる。
清正と左近がにたにたと笑いながら、甲斐姫を処刑場へと引きずっていった。甲斐姫は必死に抵抗するが、男二人の腕力に勝てるはずもなく、無理やり首に荒縄をかけられる。
その死は今まで目の当たりにした、どの死よりも残酷に映った。軋む音、苦悶の声、揺れる陰影が何もかも狂喜に満ちていて――――はそのまま、気を失った。
そして、今、ここにいる。
呆然とあたり一面に広がる曼珠沙華の花畑を見渡す。
「私たち……人狼に、負けたの……?」
「いいえ。勝利です」
独り言のように呟いた言葉に、ふいに答える声があった。
驚いて振り返ると、そこには赤い甲冑に身を包んだ幸村が笑みをたたえて立っていた。
「幸村様……?」
「殿はあの後、何が起こったのか覚えておられないのですか?」
問われて、は記憶を手繰り寄せる。だが、の脳裏には一片の記憶も蘇らない。
ふるふるとかぶりを振ると、幸村はいいのです、と微笑を返した。
「時間はある。ゆっくりとここで思い出せばいい」
「え……? 時間って、それにここは……どこなのですか?」
紅い。ただただ、紅い花弁に覆われた世界。屋外のように見えるが空には星一つない。
「心配無用です。ここにいれば、狼どもは決して手出し出来ない。殿はこの私が守ります」
「あの……幸村、様?」
おかしい。何か変だ。
狼どもは手出しできない? 人狼は勝利していない?
では、人間が勝利したのか。ここが人間たちの行き着く勝利の先なのか。
だと言うのなら、なぜ……誰もいないのだろう。なぜ、以外の誰も、存在しないのだろう……
の胸中を読むように、幸村が答えた。
「それはあなた以外、皆死んでしまったからですよ」
「え……?」
「危なかった。もう少しであなたまで失ってしまう所だった」
ゆっくりと幸村の指先が伸ばされ、の頬を撫でる。
幸村にこんな事をされるのは初めてで、は驚いて思わず身を退いた。否――――退いたつもりだったが、の身体は微動だにしなかった。
「!?」
幸村は良かった、と安堵の吐息を漏らすと、の唇を指先で撫でた。
「あなたが誰かの獲物だったら、もっと早く喰われていたかもしれない。三成殿が先に襲われたのはせめてもの幸いでした」
「え、三成が……?」
記憶にない。六日目の昼まで、三成は生きていた。
襲われた? 人狼に? 六日目の夜に?
だが、この場所が人狼の勝利によって得られた場所でないのなら――――
「ゆき、む、ら様……」
幸村の笑顔がゆっくりと迫ってくる。その目がすっと見開かれ、紅い双眸がの恐怖に引きつった顔を映し出す。
「いぁ、や、あぁ……」
幸村は紅い双眸に狂気を揺らしながら、唇を歪めて嗤い、再び良かったと呟いた。
「良かった……。あなたが狼どもに穢されなくて。穢されてしまっては、花嫁に相応しくない」
瞬間、一陣の風が吹くと舞い散った曼珠沙華の花畑の向こうに、提灯の灯りがともった。それがゆっくりと列を成して、こちらへと向かってくる。
「さぁ……、婚礼の準備を初めましょうか」
ゆっくり、ゆっくりと迫り来る狐火の列を眺めながら、はその声を意識の片隅で聞いた。
人狼の館・赤 狐の嫁入り
六日目・昼 終了
<生存者>
半兵衛(霊能者? 暫定白)、(暫定白)、三成(占い師?)、清正(暫定白)、左近(共有者?)、元就(占い師?)、幸村
<犠牲者>
秀吉、信長、宗茂、官兵衛、正則
<処刑者>
ねね、濃姫、ァ千代、くのいち、甲斐姫
六日目・夜 終了
<犠牲者>
三成
七日目・昼
遊戯が終了しました。
妖狐勢力の勝利です。
end
妖狐ENDでした。
人狼たちはあと少しで妖狐に勝利をかっさわれた形なので、
さぞ悔しかった事でしょう。