悪寒
黒で塗りつぶしたような土砂降りの夜を、徐庶はただ走り続けている。身体に叩きつけられる雨粒、上着は雨を吸って重く、水はけの悪い道を蹴るたびに足が鉛ののようになっていった。
なぜ傘を持っていないのかは分からない。だが、両手に抱えた布の包がその理由かもしれない。
自分は身を折るようにしながら、包を濡らさぬよう庇うようにしながら走っていたのだ。
目的のないような疾走を続けると、やがて徐庶は朽ちかけた庵に飛び込んだ。そこに庵がある事を知っていたのか、それともたまたま目にした場所へ雨宿りに飛び込んだのかは分からない。
庵の中もやはり闇だが、雨を防げるのは助かる。徐庶は肩で息をしながら、ゆっくりと抱えていた包を抱き上げた。あまり濡れて居ないことに安堵しながら包を解く。
固く結んだ結び目がもどかしい。しゅるしゅると衣擦れの音をさせて、次第に中身があらわになる。
まず現れたのは艶やかな黒い絹の束。それに指を滑らせて、心地よい感触に思わず頬を緩めた。
やがて白い陶器が現れる。絹とはまた違う滑らかな感触に、自分はうっとりとため息をつく。
最後に現れたのは大粒の宝石。まるで水を湛えるかのように瑞々しいその輝きに目を細めて微笑む。
「ああ、美しい。なんて美しさだ」
睦言を繰るような甘い声音で呟いた。
そして、陶器の頬を撫で、絹の髪に口づけを落とし、夢の中の自分は狂気を露わにする。宝石に似た大粒の瞳に己が姿を映し、
「これからはずっと一緒だ。これで貴方は俺のモノだ……」
首だけになったを愛おしそうに掻き抱くのだ。
寝台から転げ落ちる勢いで飛び起きた。
夢の光景とは正反対に健全に明るい現実に驚く。そしてあれは夢だと理解する反面、なんという夢を見ているのだと己の精神を疑った。
胸の鼓動が早鐘のように鳴り響いている。雨に打たれたように夜着はぐっしょりと濡れていて、その気持ち悪さに眉根をひそめた。
なんということだろう。いくら焦がれる相手だからと言って、首になったの夢を見るなんて。しかも自分はそのを奪って、逃げていた。あれはきっと宮中から逃亡し、を攫って逃げていたのだ。
夢の光景にその前後はない。だが、おそらく自分はを殺してしまったのだ。を殺して首だけをもって逃げた。自分だけのものにするために、あの美しい人の身体を傷つけ、身体から首を切り離した。
しかも ――――
何ということだろう。これが男の健全な生理現象だとしても、あんな夢を見て正常な反応を示している自身に吐き気を催した。
徐庶は途方も無い背徳感に苛まれる。次会う時にどんな顔をすればいいのだろう。自分はなんて性癖の持ち主だ。あんな夢を見て興奮したのか? 自分はに対して、そんな特殊な性的欲求を抱いているだろうか。
悶々と自己嫌悪を繰り広げている最中、ふと徐庶の目に寝台の下に散らばった衣服が目についた。なぜこんな所に脱ぎ捨てられているのか記憶にない。指に触れると、それは湿り気を帯びていて微かに雨の匂いがした。
どきり、と徐庶の心臓が跳ね上がる。
寝台の上に視線を巡らせ、布団の中に奇妙な膨らみがある事に気づいた。
まさか。
薄笑いを顔に浮かべ、指先で布団の端をつまみ上げる。嘘だ、嘘だ、嘘だと心の中で繰り返しながら、いっきに布団を翻した。
そして ――――
end
猫が丸まって寝てる⇒なんだ夢かー、と思いながら変な性癖に目覚めヤンデレルートへ
歪アリを久しぶりに見かけてなんか書きたくなちゃいました。
くびっ、くびっ、くび~♪