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 阿呆提督の船で散々大暴れした神威が第七師団の戦艦に戻ったのは、彼が阿呆提督の脱出用の船を大破させたすぐ後の事だった。
 頭を落としてしまえば圧倒的な兵力差を見せ付けられた兵達に抗う意思はなく、早々に白旗を上げてしまったのである。これ以上ここに留まっても仕方がないと、阿伏兎に後始末を押し付け帰艦しようとしたが、の姿が見当たらない。
「ねえ、は?」
 尋ねると、阿伏兎は言いにくそうに視線を虚空にさ迷わせ米神を掻いた。
「あ〜……なんかご機嫌ナナメでなァ」
 どうやら黙って先に船に戻ってしまったらしい。




心配性





 ノックをしても中から返事はなかったが、神威はが中にいる事を確信していた。
、入るよ」
 鍵など無意味とでも言うようにドアをへし折って中へ入ると、途端に鋭利な刃物が飛来してきた。
 トスッと神威の頬を掠めて、壁に突き刺さる。
 あえて避けなかった神威の頬にじんわりと血の赤が滲んだ。
 神威は笑みを浮かべて部屋の中を見やる。ソファの上に乗っかったが、不機嫌そうな顔をこちらに向けている。
 なるほど、これはずいぶんご機嫌ナナメらしい。
「出てってよ。今は話したくない」
 はぷいと顔を背けると神威に背を向けた。
 当然、そんな事を言われておめおめと引き下がる神威ではない。
 の言葉を無視して部屋の中へ上がりこむと、彼女の隣りに腰を下ろす。
 そして、
「俺の事、そんなに心配した?」
「はぁ?」
 が怒りを湛えた顔で振り返った。
「心配? するわけないでしょ。勝手に戦いに行って、勝手に罠にはまっちゃった間抜けな団長のことなんか」
「ごめん、ごめん」
「だから心配なんてしてないってば!」
 神威はくすくすと笑いながら、の身体を抱きしめた。
 どうやらこの素直でない恋人は、その間抜けな団長のことをかなり心配してくれたらしい。で、慌てて駆けつけてみれば、ピンピンして楽しそうに大暴れしていたのである。これが不機嫌の理由だ。
 不服そうな顔をしながらも、黙って抱きしめられているが可愛くて、神威の唇には上機嫌な笑みが浮かんでいた。
「俺も心配しなかったよ」
 の髪を撫でながら神威が呟く。
 第四師団の勾狼に第七師団が落ちたと聞かされた時も、彼はそれを信じなかった。
が簡単にやられるなんて思わないからね」
 仲間としての力量を信じているという意味である。
 だが、はわずかに落胆したように目を伏せた。ふうん、と気のない振りをしながらも、自分ばかりが心配をして不公平だと思っているのだろう。
 神威はくすりと笑みを零し、
「でも、の事をずっと考えてた」
 ちゅっと掠めるようなキスを頬に見舞う。
「心配してないかな、悲しませてないかなって」
「……っ!」
「早く会いたかった」
 ちゅうっと今度は啄ばむように、神威はの唇に己のそれを重ねた。
 こつりと額を合わせ、至近距離で交わる視線。の混乱と羞恥が混ざった泣きそうな顔が、熱を帯びて伝わって来る。
「ねえ、を抱かせてよ」
 懇願と呼ぶには、拒否権のない我侭な願いを熱っぽい声で口にする。
に触れたい……感じたい……一緒になりたい」
 再び合わさった唇は、より深い口付けへと変わっていく。
 そして、長い口付けの後には、もはや余裕すらない切迫した吐息を漏らし、
「ねえ……が不足してる」
 そのままもつれる様にソファの上に重なり合った。





 の白い指先が、神威の背に残る傷跡をゆっくりと撫でていく。
 くすぐったいよと笑ってはいるが、傷跡は酷い。夜兎の治癒能力を以ってしても、未だ痛々しい跡を神威の白い背に残していたのだった。
「痛かった?」
 そう尋ねると、神威は別にと嘯いた。
 象でさえ卒倒させる毒矢なのだからそれなりに苦痛は感じていた。だが、あの瞬間、神威の脳裏を襲ったのはそんな事ではない。
 獲物への闘争欲でも、罠にはまった己への自嘲でもなく。
 ああ、今日はに会えないな――――
 惚気でも何でもなく、自然にそんな事を思ったのだ。
 それを告げるとは真っ赤になって、ピンチだったくせに何言ってるのと怒ったが、神威はただ笑いながらそれを受け止めた。
 そして、の腕を引き、ねえと耳元に囁きかける。
 再び熱を帯び始めた吐息がの耳朶をくすぐって、
「ねえ……、まだが足りないよ」
 真っ赤になって口を噤んでしまった恋人に、神威はゆったりと覆い被さったのだった。



end


佳奈さん、リクエストありがとうございました!
あまり甘くなりきらずに、すみません!
お楽しみいただけたら幸いです!