続・過保護軍師 余談
なんだかなぁ、と呟いたのは飄々とした態度を通り越して、いつも以上に覇気のない顔の半兵衛だった。
「あの過保護さえなければ、いい軍師だと思うんだけど。ま、俺の次くらいに、だけどさ」
半眼の向けられた先には、黒衣の軍師。先日、半兵衛の吊るされた松の木には、頭部の出っ張った青年が逆さ吊りにされて絶叫を上げている。
「ふん。過大評価は妄想の中だけで完結してもらおう」
年上に対する礼儀だとかは一切なく、相変わらずの傲岸な物言いで半兵衛の独り言に口を挟むのは、同じく縁側に腰を下ろし仏頂面を更に不機嫌そうにしかめた三成だった。
煩いな、と睨み付けて、
「じゃあ、いい軍師じゃなくて、いい男に言い換えるよ。顔良し、頭良し、家柄良し。腕も立つしね」
最初の自画自賛は無視するとして、まあ頭と腕くらいは三成も認めてやってもいいと思っている。軍師として知略は申し分ないし、こう見えて剣術は免許皆伝の腕前だ。
が、だからなんだと視線で言い返してやった。それくらいの性能なら三成とて備えているし、むしろ身長が高いのと若い分だけ半兵衛に勝っていると思う。
「と釣り合うとは思えんな。少なくとも俺を差し置いて、抜きん出る要因がない」
ばっさりと切り捨てる物言いに、半兵衛は言うねぇと表情に険を含めた。
「俺だって、ろくに告白できないヘタレなんかに劣るつもりはないよ? 左近もかわいそー。こんなヘタレん坊に付き合わされて」
誰がヘタレん坊だ、と三成も不機嫌な視線を半兵衛に向ける。
「いい年をして小娘の尻を追い回す方が見苦しいと気づかないのか?」
「べつにー。俺、顔若いし。それにも大人の魅力にぐらっとくるんじゃない?」
「大人の魅力?」
はんっと鼻を鳴らして、三成の顔に嘲笑が浮かぶ。
「うわ、その顔ムカつく」
「大人の余裕すらない奴に魅力が備わるとは思えんな。だいたい、俺はヘタレているのではない。ぽっと出のお前と違って、俺との仲は長いのだ。筒井筒の線を越えるにはそれなりの準備と時間が要るだけで、」
「で、もたもたしてる内に、俺にかっ攫われると」
にやにやと浮かぶ半兵衛の笑み。
三成はひくり、と顔を引きつらせた。
「お前は兎と亀の寓話を知らぬのか? 得てして世の中は誠実な者の味方なのだよ」
「俺、兎みたいに手は抜かないし。むしろ相手が亀だろーがなんだろうが、全力で叩き潰すよ? ギッタンギッタンのぐっちゃぐちゃに」
可愛い顔をしているくせに、物騒な言葉が半兵衛の口から零れる。
だが、三成もまた綺麗なすまし顔でそれを受け流し、やれるものならやってみろ、と挑発を返す。
しばしの沈黙。両者の間でぶつかる火花が、一触即発な剣呑な空気を醸し出す。
そして次の瞬間、互いの胸倉をつかみ合うと、
「と夫婦になるのはこの俺なんだから、餓鬼はすっこんでろ!」
「年寄りこそとっとと退場するがいい! 目障りなのだよ!」
ぎゃーぎゃーとまるで子供の喧嘩のように騒ぎ合う。
頬をつねり合ったり、頭突きをかましたり――――とても軍師と智将の争いには見えない。そんな光景を目の当たりにしたら、それこそが呆れ返るというものだが、二人の脳裏にはそんな発想すら思い浮かばず、むしろ今一番注意すべき存在すら忘れ去っていたのだ。
闇を纏った黒い影が二人の前に立ち、
「卿らは……学習が足りぬのだな」
振りかざされた巨大な鬼の手を前にして、二人はようやく自分の立場を再認識したのだった。
嗚呼、この過保護軍師がいる限り、自分たちが陽の目を見ることはないのだと――――
おまけ
ぼろぼろの二人を前にして、驚くヒロイン。
「えっ、二人ともその傷はどうしたのですか!?」
「三成のせいでさ〜。ね、ところで、俺腕が痛くて箸持てないんだ。が食べさせてくれたら嬉しいんだけど」
「ふん。犬のように床に這いつくばって食らえば良いのではないか?」
「三成……。ちょっと表出る?」
「望むところだ。、このクズ軍師の飯はいらん。俺が二膳食うから用意して待っていろ」
「三成ぃ〜」
end
進歩のない二人でした。
ひよ様、この度は素敵なリクエストをありがとうございました!