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 まばゆい光に目を開く。
「朝か……」
 いつの間に寝入ってしまったんだろう。今日のお勤めは何時からだっけ?
 そんな事を思いながら身体を起こすと、ふと柔らかな何かに指先が触れた。
 つと、視線をそちらにやると、白く伸びた腕がにょきりと布団の下から生えている。それが、まるで――――いや、実際その通りに、腕枕をするようにの頭の下に伸ばされているのだ。
 これは……なんでしょう。
 ふと誰かに問いたくなったが、この部屋には自分しかおらず――――もとい、自分とこの腕の主しかおらず。はひくりと顔を引きつらせ、そっと布団の中を覗いてみた。
「っっっ!!?」
 当たり前というか、予想していた事ではあったが、一糸纏わぬ己の四肢がそこにはあった。隣まで確認する勇気はないが、おそらく、十中八九、これはそういう事に違いあるまい……




一夜の過ち





 落ち着こう。とりあえず、落ち着こう!
 は混乱した自分の頭に命を下した。どんな戦況であろうとも、状況を正しく判断できれば、対処法が生まれるものだ。いつか官兵衛の言っていた言葉を思い出し、は状況を把握する事にした。
 まず、部屋の中をぐるりと見渡す。
 この部屋は――――たしか客間に使っていた、西の端の部屋だ。という事は、少なくとも屋敷から出て、どこかにかどわかされたというわけではない。
 次に布団の周りにらばった男女の衣服。言わずとしれた自分と相手の着物だろうが、畳まれていないという事は、少なくとも何かの勢いに沿ってしまった行動のようだ。が、破かれていない所を見ると、とりあえず和姦という事なのか……
 そして肝心の相手だが……
 布団からはみ出した腕と、柔らかそうな黒髪にはごくりとつばを飲み込む。布団を剥いでしまえば全てが分かる……が、知ってしまうのも何か怖い。
 うんうんと呻りながらが懊悩していると、
「ん……起きたの、?」
 と、見知った顔が布団の下から覗いた。
「は、半兵衛さま……」
「おはよう。
 氷ついたと対照的に、半兵衛はにこりと柔らかい笑みを浮かべると、そのままの頬に口付けた。
 ぴしり、とまるで石化するように固まる
 もはや間違えようのない真実。やはり自分は、半兵衛と一夜の過ちを犯してしまったのだ。
「あ、あの、半兵衛様……私達、もしかして……」
「ん、大丈夫だって。官兵衛殿にはちゃんと内緒にしてあげるから」
「な、内緒?」
「そ。だって知られると恥ずかしいからってが言ったんだよ? それに……隠れてイケナイ事するのってなんか燃えるよね」
 くすり、と笑って、半兵衛が一瞬、雄の表情を見せた。獲物を捕らえるような捕食者の笑みに、はくらりと眩暈を覚える。
 この顔にぱくりとやられてしまったのだろうか。でも、自分には全然そんな記憶など無くて、夢だといわれればそのまま信じてしまいそうだ。
 と、が混乱していると、突如ぐるりと視界が反転した。
「え、」
「せっかくだからさ。昨日の続きしようか?」
 と、無邪気な笑みを浮かべつつ、半兵衛がの身体に馬乗りになる。
「あ、あの、半兵衛さ……」
 皆まで言う前に唇を塞がれた。未だかつて体験した事のないような、深い口付けに頭の芯がぼうっとする。舌の根まで吸い込まれてしまいそうなほど、深く深く求められ、はしらず両の瞳に涙を浮かべていた。
「様は禁止。昨日、言ったでしょ?」
 ふふっと笑って、半兵衛の指先が首筋を滑った。の身体がびくりと跳ね上がる。
「やっぱり感度いいね、は」
 耳元で囁かれ頭の中が真っ白になってしまう。
「じょ、冗談は止めてください!」
 は渾身の力で半兵衛の身体を突き飛ばすと、床に散らばった着物を羽織、脱兎の如き勢いで逃げていってしまった。





「あらら……逃がしちゃったかぁ」
 半兵衛は呟き、開け放たれた襖を閉じる。
 しかし、半兵衛は上機嫌だった。あれならば、きっと一夜の過ちがあったものと、に印象付けれたに違いない。
「本当は、何にも無かったんだけどね〜」
 と、にやりと笑う。
 真実は水と間違えて酒を呷ってしまったを、半兵衛が部屋に送る所から始まる。始終、暑い暑いといって、ついに着物を脱ぎ出してしまったを、なんとか人目につかないようにこの空き部屋に連れてきたのだ。
 とりあえず寝かせようと布団を敷くと、は勝手に着物を脱いで、勝手に横になってしまった。しかも、添い寝してくれなきゃ嫌だと駄々をこねる始末。仕方なく半兵衛が横になると、やっと大人しく寝入ったというわけだった。
 とはいえ、好きな相手が隣で――――しかも全裸で寝入っているというのに、手を出せないもどかしさに半兵衛が悶々と懊悩した事をは知らない。だったら一つ策にはめてやろうかと、羽織だけ脱いで、さも男女の営みがあったように見せかけたのは半兵衛の思惑通りだった。
「次、会うときが楽しみだなぁ」
 半兵衛は上機嫌で鼻唄を奏でた。

 一方、策にはめられたの方は、自室に飛び込み膝を抱えてぶるぶると震えていた。
 あんな事をためらいもなくされたという事は、きっと昨晩はあれよりもすごい事をしてしまったに違いない。きっと口に出す事もはばかられるようなあんな事やこんな事の数々を、してしまったのだ。
「ああ……恥ずかしくてもう死にたい……」
 は耳まで真っ赤に染め上げ、独りそう呟いた。



end


氷月様、40000hitsおめでとうございます!!
半兵衛と一夜の過ち(笑)でした
エロ不足ですみません。。
ご希望に添えていると幸いです!