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2.大輪のひまわり





 これほど俺たちに似合わない花はないだろうねぇ、と黄色い花弁を眺めながら神威が呟いた。傍らに佇む阿伏兎が、ソーデスネーと気のない返事を寄越す。
 夜兎にとって日光は毒だ。世界が真夏を謳歌しようと、どれだけヒマワリが美しく咲き誇ろうとも、自分たちが太陽に愛されることはない。
 だからクソ暑い真夏にもかかわらず、分厚いマントで身体を覆い、肌の一遍も露わにならないよう厳重に包帯を巻いているのだ。隣りの神威も同じような井出たちで、面倒さと暑さは同じであろうに、神威はにこにこと笑っている。
 そりゃあそうでしょうとも。
 我等が団長様は、愛しの恋人とバカンスを楽しんでいる真っ最中なのだ。
 神威が地球のホッカイドーとか言う場所の旅行パンフレットを持って来た時は、阿伏兎もわずかなりとも心を動かされた。美味い飯に、新鮮な海鮮、夏にも関わらず涼しく穏やかな気候。夏の日差しは忌々しいが、たまにはこういう牧歌的な場所で、長旅の疲れを癒してもいいじゃないか、そう思った。
 その途中で、どこそこのフラワーパークとやらに寄ってやったっていいさ。俺は濃厚ミルクのソフトクリームでも食ってるから。せいぜい二人仲良くお花畑で腕でも組んでくれ、と。
 だが――――
「おい、ホッカイドーもこんなに暑いなんて聞いてねぇぞ」
 真夏日だがなんだか知らないが、三人が訪れてから地獄のような暑さである。これでも江戸に比べれば涼しいのかもしれない――――が、年中、宇宙船で銀河を漂っている三人にして見れば、わずかな天候の違いなど分かりはしない。
 こんなに暑いならもういいよね。カニ食ったらさっさと帰ろうね、となってくれる事を阿伏兎は祈った。だいたい神威とと俺って、俺だけお邪魔虫じゃねーの。居所ないじゃないの。俺だけ一人部屋じゃねーの、と。
 だが、のたっての希望で、フラワーパーク行きは決行。雨でも降ってくれれば良かったのだが、阿伏兎の祈りはむなしく、こうして殺人的な日差しに抗いながら怪しい風貌でやって来たのだった。
 一面に咲き誇る真夏のヒマワリ。それはそれで美しいが、こんなモノは一目見ればそれで十分だ。
 そもそも、これほど自分たちに似合わぬ花があるだろうか。“向日葵”などと――――日に背を向ける自分たちとは間逆に咲く花。
 俺たちには眩しくって花さえ眺めることはできねェ。
 その時、花畑の向こうで、が二人の名を呼んで手を振った。
 ハーフであるは日傘を差しているものの、包帯もマントもなく、人間と同じように夏を楽しむ人の格好をしていた。白いワンピースに麦藁帽子という大変優雅な格好で、楽しそうで宜しいですねェと阿伏兎は毒づいて見せる。
「見て。あっちで株をもらったよ」
 と、鉢に入った大輪のヒマワリを胸に抱き、嬉しそうに微笑む。
「ずっと憧れてたんだ。ヒマワリ育ててみたかったの」
 なるほど、どうやらこれがバカンスの一番の目的だったらしい。
 そりゃあようございましたねェ、と厭味っぽく言う阿伏兎を無視して、神威も良かったね、と微笑んでいる。
 まあ、二人が幸せそうにしていてくれるなら――――被害は最小限で済むし――――何よりなのだけれど。
「しっかし、夜兎が向日葵ねぇ。俺たちにゃ、月下美人の方が似合うと思うけどな」
 夜にだけ咲き朝日と共に朽ちていく砂漠の花こそ、自分たちには似合いの花だと、卑下を込めて呟いて見せる。
 そうかもね、とは頷きながらも、その指先は愛おしげに黄色い花弁を撫でていた。
 確かに夜兎にとって太陽の光は毒にしかならないが、だからこそその恩恵をいっぱいに受けたこの花を愛でてみたいと思ったのかもしれない。
「それでも、私はこの花スキだよ?」
 みんなにも見せてあげたいの、そう微笑んで嬉しそうに鉢植えを抱きしめる。
 そのまま花に名前でも付けてしまいそうな勢いに、阿伏兎は呆れながらも、顔には思わず笑みが浮かんでいた。
「じゃ、カニ食って帰るとしますか」
 阿伏兎の号令に、神威もも嬉しそうに頷きを返した。





end


手が届かないからこそ欲しくなる。
そんな気持ち。
それにしても、あの包帯ぐるぐるの格好で観光なんてされたら、
周りの客がビビっちゃっていい営業妨害ですね。