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2.突然触れてくる





 「っ!」
 後頭部に誰かの指先を感じた。
 髪をさらさらと撫でる指先。こんな事を自分に対してするのは、この城では一人だけだ。
「何のつもりだ、
 座ったままちらりと視線を後ろにやると、ひどく真面目な顔をしたが三成の髪を触っていた。
「ほんっと三成の髪ってさらさらだよね〜」
 詫び入れるどころか、ぬけぬけと、女の子みたい、と言って笑う。
「……怒らせたいのか?」
 と、すごんでみせるが、それが効く様な相手ではない。
「ね、三つ編みしていい?」
「断る」
「そんな事言わないでよ〜」
 人の話を聞いていないのか、はご機嫌な様子で三成の髪をいじり始めた。
 馬鹿は相手にするだけ時間の無駄、そう判断した三成はを無視して書きかけていた書状に向き直った。変に中断されたおかげで、何を書こうとしていたのか思い出せない。とんだ邪魔が入った。
「私ね、三成の髪、好きだよ」
「っ! ……そうか」
 また大して考えもしないくせに、妙な事を言って人の心を徒にざわめかせる。どうせすぐに忘れてしまうのだろうと思ったら、なんだか無性に悔しくなった。
 だから、意趣返しのつもりだった。
 三成はくるりと身体を回すと、と顔を合わせるように座った。きょとん、と不思議そうな顔をしているの、長い髪をそっと一房手に取った。
「なに?」
「……俺ばかりが触られるのは不公平だ」
「三つ編みでもする?」
「そういう意味ではない!」
 分かっているのかいないのか、はくすくすと笑って背中を向けた。
 ぱらりと肩から落ちる色素の薄い髪に、自然と指が伸びていた。髪の間に指を立て、くしのように梳くと、さらさらと流れ落ちる。絹のようなさわり心地に、知れず胸が高鳴った。
「ねえ、こうしてると小さい時みたいだね。よく三つ編み、結いっこしたっけ」
「だいぶ無理矢理だったがな」
 そうだっけ、とはくすくすと笑った。
 当の本人は忘れてしまったかもしれないが、どれだけのわがままに振り回されたのか、三成はいまでも忘れない。
 いつも男の子の遊びでつまんない、と言い出したが、三成・清正・正則の三人に無理矢理髪遊びにつき合わせたのだった。色とりどりの紐を蝶々結びに結って、は大層ご満悦だったが、被害者たちはあの時の屈辱を今でも忘れないだろう。
 特に髪の長かった三成はお気に入りで、三つ編みを結われ、寝るまでほどくのを禁じられた覚えがあった。あの時は、さんざん正則にからかわれ、怒った三成が乱闘をしかけたが、結局が二人をしばき倒し遊びを続行させたのだった。
「あの時は楽しかったよね」
 と、は遠い目をして言う。どうせ否定したところで当のは記憶を改ざんしているのだろうし、無駄と知って三成はどこがだ、と呟くだけにした。
「また、ああやって仲良く遊べたらいいのになぁ……」
 遠い目でが呟く。
 四人の仲が悪くなったわけではない。
 だが、幼いころのように無邪気に遊べる年頃でもない。
 乱世に呑まれ、戦に出、昔のようにいつも一緒というわけでもない。これからはもっと、一人ひとりの心が違う物を目指して離れていくのだろう。
 仕方がないことだけれど、少し寂しい。がぽつりと言った。
「三成。……今後何があっても、私は皆のお姉ちゃんだからね?」
「……姉と、誰が決めた」
「だって、私の方が一月早く生まれたんだもん。だから、私がおねーちゃん」
 だから、皆も仲良くいてね?
 そういって笑う。がそれを言うのは反則だ。
 小さい頃ならいざ知らず、誰もを姉とは思っていないだろう。一人の女として意識してしまっているのに、誰よりも先に手にしたいと思っているのに。
「……約束はできんな」
 三成はそっと呟いて、の背中をぎゅうと抱きしめた。
 にとっては弟が甘えているようにしか思えなくとも、いつか必ず一人の男として認めてもらえると信じて。



end

なんだかよく分からない話になりました…
三人はもう姉とは思っていないのに、姉で在り続けようとするヒロインとの乖離。