突如こぼれた甘い言葉。にっこりと微笑んで、無敵の表情。
きっとにしてみれば、純粋に褒めただけなんだろうけど……
あーあ、清正の方は顔真っ赤だよ。
これだから天然って、怖いんだよなぁ。
4.そんな簡単に好きって
言うな!
「あれ、どうにかなんないのかな〜」
ぼやきながら半兵衛は文机に突っ伏した。
「…なんの話だ」
視線だけで官兵衛の方を見やると、同僚の軍師はさして興味もないといった顔でもくもくと執務をこなしていた。
「だから〜、のことだよ〜。人を褒める時、簡単に好きっていうでしょ? あれ、ゼッタイ勘違いさせてると思うんだよね」
「たかだか言葉一つで将がやる気を出すならば安いものだ。何の問題がある」
さらりと返ってきた言葉に、半兵衛は盛大にため息をついた。
この男はどうも情というものを欠いている。無神経で鈍感、がああなった原因の一端はきっとこの男のせいに違いないと半兵衛は悟った。
「問題大アリだよ! あんな簡単に好きだなんて言って、本気にさせたらどうするつもり? に変な虫がついちゃうよ!」
「豊臣の兵なら問題はないように思うが?」
「だから、あるって言ってんじゃん! 男なんてみーんなオオカミなんだから、みたいな世間知らずな子、すぐパクっだよ! が俺の知らない所であんな事やこんな事されるなんて……あー、許せない!!」
言いながら、半兵衛は両足をばたばたと暴れさせた。
こうしていると、まるで子供が駄々をこねているようなのだが……それは心にしまって、官兵衛はふむと腕組みをした。
「そうは言っても、あれももう子供ではあるまい。卿が案ずることこそ、余計なお世話というものではないか?」
「そ、それはそうだけど……俺が気に食わないの! それに! 官兵衛殿は平気なわけ? ある日いきなり清正とか正則あたりが、お義父さんなんて呼んできたらどーすんのっ!?」
どうするも何も、と官兵衛の間に血のつながりは無い。確かに幼少の頃より後ろ盾としてその役を担う事はあったが、だからといってお義父さんと呼ばれるのは筋が違う。
「義父と呼ぶならば、むしろ秀吉様の方ではないか? 一時期、養女に迎えられようとされたのだから」
もっとも、実際にはは誰の養女にもならず、受け継いだ姓を今も名乗っている。それがなりのけじめのつけ方だったのだろうが、官兵衛にしてみれば愚考としかいいようがない。
秀吉はその頃でも織田軍一番の出世頭だった。さっさと秀吉の庇護下にいついてしまえば、いくらかやりやすかっただろうに。
と、考えを広げていると、半兵衛は再び呆れたようにため息をついた。
そーじゃなくってさ〜、と髪をがしがし掻き毟りながら呆れ顔を官兵衛に向け、
「官兵衛殿はのこと、大切じゃないわけ?」
「そうは言っていない。あれは計略を成すのに役に立つ」
「違うって。戦場でどうとかじゃなくってさ〜。曲りなりにも軍略のお師匠さんでしょ? を一人の女の子として大切に思わないのか、ってこと」
いなくなっちゃったら寂しいでしょ?
半兵衛意に問われ、ぷつり、と官兵衛の思考が停止した。
正直いって、そういう事を考えた事はなかった。あれはいつでも自分からやってきて、勝手に居座る猫みたいなものだから、いなくなるという事を想定していなかった。
いつでも、官兵衛様、官兵衛様と子供のように、後を付いてきたものだから。
「そうか…いつかあれも嫁にいくのか…」
「ちがうって!」
半兵衛は盛大にがくりと肩を落とした。
どうにもこの手の話題をすると、話がかみ合わず拍子抜けした返答が来てしまう。
軍略は天才なのにな〜。
なかばあきらめ加減で半兵衛がため息をつくと、官兵衛は遠い目をしてぼそりと呟いた。
「そうか……、いなくなられては……静か過ぎて落ち着かんな……」
「え、それって…」
半兵衛がぱちくりと目を瞬かせていると、言うが早いが官兵衛が立ち上がった。
「官兵衛殿?」
怪訝な顔を向けると、官兵衛はいつもの無表情な顔で、
「改めさせるなら早いに越した事はあるまい。たしなめて参る」
言って、ぱたんと閉められた襖。
残された半兵衛は呆然と官兵衛の出て行った先を見つめ、
「なんか違うけど……ま、いっか」
結局は半兵衛の思惑通りに事が進んだのだった。
end
おまけ
「ね、ねえ、官兵衛殿。の好き〜の話だけど、あれ別に直さなくてもいいかも」
「なに?」
「い、いや、あのさぁ、に『半兵衛様のそういう所、好きです』って言われたらなんかさ〜」
に好きっていわれてまんざらじゃない半兵衛さん。
おまけ2
「官兵衛様のそういうところ、大好きです(にっこり)」
「ねえ、かんべー殿。口調直ってなくない? ていうか、なんで官兵衛殿だけ大好きなの? 止めさせにいったんじゃなかったの?」
自分だけちゃっかりランクアップさせてる官兵衛さん。