は大きく伸びをすると、膝の上の兵書を閉じた。
屋敷の中では気が滅入るからという理由で外に出て来たものの、心地よい春の日差しに邪魔をされて、一向に勉学が進まない。
これいい加減に読まないと、官兵衛様に怒られるだろうなぁ…
そんなことを思いつつも、まぶたはゆるゆると下がっていき、眠りの世界へと誘われる。一刻もたたないうちに、は眠りの中へと落ちていった。
3.そんなところで寝てたら
風邪引くよ
「危なっかしいなぁ…」
と、眠りこけたを見下ろすようにして、半兵衛は呟いた。
官兵衛からは出かけたと聞いて、外に探しに来たところ、桃の木の木陰で眠りこける彼女を見つけた。
膝の上には、分厚い兵書。大方、外ならはかどると思って出たものの、眠気に抗えなくて寝入ってしまったというところだろう。
「本当に、ぐっすり眠っちゃって」
と、半兵衛はため息をつく。
いくら領内とはいえ、女性が堂々と寝られるほど治安がいいわけではない。武芸の心得があるからといって、寝込みを襲われたらどうするつもりだ。
半兵衛の脳裏に、清正やら三成の顔が浮かぶ。さすがに襲いはしないだろうが、の寝顔を独占されると思ったら腹が立った。
「ま、見つけたからには、俺が独占しちゃうんだけどね〜」
呟いて、の隣に腰を降ろす。
「っと、女の子が身体冷やしちゃたいへーん」
自分の上着をかけてやると、うん…とが小さく身じろいだ。そして、隣に座る半兵衛の肩にこつりと頭を預ける。
これはなかなか…役得というやつかもしれない。
気を良くした半兵衛は、肩を動かさないようにして静かに目を閉じた。願わくば、同じ夢を見れますように…
「半兵衛……半兵衛、起きよ」
呼ぶ声で目を覚ます。
うっすらと目を開くと、官兵衛が腕を組んで目の前に佇んでいた。
あまり寝起きに見たい顔じゃないな…などとぼんやり思いながら、大きく伸びをしてあくびをする。
あたりはとっぷりと日が暮れていた。
「探しに来てみれば、そろって昼寝とはのん気なものだな」
と、憎まれ口を叩くが、わざわざ探しに来てくれたという事実が露見していることに本人は気づいていない。勿論、大の大人である自分を探しに来るはずが無いのだから、を探しにきたのだろう。
本当に過保護なんだから……
くすりと笑って、半兵衛は立ち上がりかけたが、肩に乗ったの頭を思い出し動きを止めた。
「起こせ」
「えー、せっかく気持ちよさそうに寝てんのに、かわいそうだよ」
「では、どうする」
問われて、そりゃあ決まってんでしょと、背中におぶると官兵衛は呆れたように息をついた。
「卿が甘やかしては、のためにならぬ」
「えー、いいじゃん。可愛い子は甘やかさなきゃ」
「なんだそれは」
つっけんどんな物言いをしつつ、官兵衛がを大切に思っていることは半兵衛もわかっている。が、愛情を形にするのが苦手なためか、往々にしてそれは不発しているようだ。がそれを不満に思っていることはないだろうが、この不器用な軍師に代わり、誰かがそれを教えてやらねば。
一向に目覚める気配のない背中の少女を、半兵衛は大切に抱きかかえた。
end
半兵衛は小柄ですがヒロインを抱きかかえるくらいの体力はあるさ!