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096.強がり





 菊が大日本帝国を名乗るようになってからか、日本が軍国主義に走ってからか、日英同盟が潰えてからか ―――― いつの頃からかはどこか刺々しくなったように思う。
 長かった黒髪をばっさりと切り落とし、白い軍服に日本刀という出で立ち。昔のようには笑わず、言葉は少なく、いつも苛立たしげにしている反面、表情はない。
 国の一部であるが菊の影響を受けるのは当然のこと。だが、それ以上に片意地を張っているように見えた。まるで思春期の男子が周りに舐められないように虚勢を張っているようで、とても見てはいられない。
 だから、きっとそれは余計な一言だったのだろう。
「お前……やめろよ。それ」
 国々の休憩室として用意された一室の片隅で、無言で紫煙をくゆらせるに声をかけた。
 声をかけられたは、一瞬アーサーの意味するそれを理解出来なかったらしい。表情の動かない顔でじっと彼を見つめた一拍後、灰が伸びかけた煙草を灰皿の角でとんとんと叩いた。
「これは大英様、お久しぶりにございます」
 あえて名前を呼ばないのは皮肉のつもりなのか。アーサーは眉根をわずかにしかめたが、黙っての指先に挟まれた煙草を見つめた。
「日本産の香りはお嫌いですか? あいにく今は持ち合わせがないので、替えがないのですが」
「そうじゃねぇよ」
 アーサーは苛立たしげに否定すると、の指先からそれを奪い取る。
「……何のつもりです?」
 表面的には何も変わらないが、明らかに瞳に怒りの色が浮かぶ。
「お前は吸うな」
「シガレットは紳士の嗜みではございませんでしたか?」
「だが、お前は紳士じゃない」
「上流階級の淑女も嗜むものと記憶しておりましたが。わたくし程度には相応しくないと?」
「そうじゃなくて……ああ、くそっ!」
 アーサーはがりがりと頭を掻き毟ると、徐にから奪った煙草を口にくわえた。自国のものより味の淡い煙を吸い込んで、唇の先から吹き出す。
 そして、それを吐き切らないうちに口移しに紫煙を渡すように、の唇に己のそれを重ねた。
 驚いて目を見開いた瞬間、の平手がアーサーの頬を強かに打った。
「どうだよ……本当に美味いと思ってるのか?」
 あんな事をされて味などわかるはずがない。
 は軽く舌打ちを漏らすと、失礼する、と呟いてその場を辞去した。
 灰の伸びた煙草を灰皿の底に押し当てて、アーサーは叩かれた頬に手を添えた。
「くそっ……痛ぇな、畜生」

end


菊が帝国になってから、何かに目覚めて不良化しちゃったヒロインのお話。
舐められないように煙草すったり、特攻服(軍服)着てみたりしたけど、
実は自分自身どこか違和感があってイライラ。
でもそれを他の人に指摘されると、逆切れしちゃうそんな青臭い子です。
べつにアーサーにキスさせる必要なかったんだけど、
じゃないと叩かれ損だから!