WW2ネタです。
フィクションとしてお楽しみください。
079.爆弾
左腕が吹き飛んだ。
右耳の聴覚を失った。
爆撃を受け脇腹を負傷し、撤退戦で背にいくつもの銃弾を受けた。
一人倒れ、二人倒れ、みつ、よつ、いつ、む ――――
味方も、敵も、血の花を咲かせて地に崩れ落ちる。国旗を失えば、もはやどこの国の兵か分からない。ただ動く者に向かって襲い掛かる、私は獣と化していた。
「酷い有様だね」
声の人物が何者なのか、私はすぐには思い出すことが出来なかった。
屍を避けてこちらへ向かってくる金髪碧眼の男。まさかこんな最前線に居るはずがないと目を疑い、次にそれが現実だと知り唇に笑が浮かんだ。
「これはこれは、ようこそ遠い所から」
皮肉って恭しく礼をしてやったが、男は視線を鋭くさせるだけだった。
男が引き連れた兵達が銃口を私に向けている。一振りで何人仕留められるだろう。血でぬめついた刀を握りながら計算する。
その思考を遮るように男が私に呼びかける。
「降伏するんだ」
何を言っているのか、理解出来なかった。
降伏? この私にひれ伏し屈せと?
唇に嘲りの笑みが乗る。
「降伏など、あり得ません」
私は思考を再開する。前列を崩す間に銃弾をどれだけ食らうだろう。右腕さえ残っていればいい。人間の銃弾で私は殺せない。
「いいや、降伏するんだ」
男は尚も私の思考を妨害する。さっきより強い口調。苛立たしげな声音。
私は呆れる。
「御したいのならば、左腕だけと言わず右腕ももぎ取りなさい。両足を、口を、顔を、すべて潰してから言いなさい」
戦える者を前にして、何が降伏か。私はまだ動ける。私はまだ働ける。
「そうじゃない! 君は降伏しなくちゃならないんだよ! 戦争は終わったんだ! 菊はもう敗戦を認めた! それなのに君に……戦う理由があるのかい!?」
私はゆっくりと男の言葉を反芻した。
ハイセン?
意味が分からない。お祖父様が屈するはずがない。お祖父様が諦めるはずがない。だってあの方は私の祖国。私の敬愛する唯一のお方。
嗚呼、そうだ。この男は嘘を付いている。嘘をついて私の動揺を誘っている。
なんと卑劣な。そんな戯言で心を動かすものか。
私は心を閉ざし、ゆっくりと刀を構えた。
「どうして……」
男が悔し気な顔で呟く。それを横目で見ながら、私は前列の兵へ向かって突進した。
血の花が咲いて、断末魔と叫び声と、死臭が立ち上り ――――
銃声が響いた。
私の右腕は刀を握りしめたまま、空へ飛来した。
end
東南アジアのどこかの戦線で。