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同盟=結婚みたいな表現を用いているので、国が重婚してます。
イタリア、イギリス、アメリカ、オランダ、プロイセンが登場しますが、あまり仲は良くないです。
フィクションとしてお楽しみください。















 可愛い子は大好きだし、ヤマトナデシコに興味もあった。ひと目で気に入って、ハグを拒まれて更にそんな所を可愛いと思った。
 でも、そこまで。これ以上は駄目。
 だってあの子の後ろに、怖い国達がたくさんいるんだもん。



073.下剋上





「そりゃ当然、俺が一番だろ。なんたって同盟中は蜜月だったからな」
「Hey、俺以外が一番を語るなんて許さないんだぞ。俺が一番に決まってるじゃないか! なんたって開国させたのはこの俺なんだからね!」
「大砲向けられれば嫌でも開港するやざ。夫婦水入らずの所を邪魔しくさって」
「はっ、邪魔者全員潰しておいてよく言うぜ。その点、俺様はあっちから求めて来たんだからな。愛の深さが違うぜー、ケセセッ」
 イタリアの安眠を妨げるように、騒音となりつつある男たちの話し声は会議室のバルコニーの方から聞こえて来た。会議中に十分寝ていたのだが、イタリアが重い瞼を押し上げ顔を上げると、イギリス、アメリカ、オランダ、プロイセンの四人が喫煙スペースで煙草をふかしながら何やら言い争っていた。
「あぁ? ふざけんなよ小鳥野郎。俺だってあっちから請われて色々教えてやったんだぜ。海軍はほとんど俺仕込みだってこと忘れんなよな」
「これだからオッサン達は昔の事ばかりなんだぞ。今の日本を見てみたらどうだい? 俺に一番頼ってるじゃないか」
「はっ、ほやから餓鬼はどもならんわ。日本の八つ橋まで食わんときね」
「餓鬼に獲られて負け惜しみかチューリップ頭。ま、俺様の小鳥のようなカッコよさには誰も敵わねーけどな。それこそあの頃はいっつも俺の後ろを歩いて回って、プロイセン様、プロイセン様ってそりゃヴェストの次くらいに可愛かったんだぜー」
 なんだ、つまらない話聞いちゃった、とイタリアはテーブルの上にくてんと頭を預け、四人の男たちの方へ遠い眼差しを送った。
 日英同盟のイギリス。黒船来航のアメリカ。鎖国時代のオランダ。近代化の師となったプロイセン。
 皆が皆、あの子と特別な時間を共有している。彼氏、恋人、夫 ―――― 人間だったら、そんな関係だったのだろう。
 自分だって色々な国とそんな関係を結んだし、国に人間のような貞操観念は要らない。人と違って国の結婚に愛は必ずしも伴わない。だが、おかしなことに嫉妬心は覚えるのだ。
 あの子の特別だった男たちは、どんな風にあの子を抱きしめて、あの子にキスをしたんだろう ―――― そう思うと、手を伸ばせなかった自分は胸の奥がちりちりと焼けるように痛い。
 好きだったんだけどな。ううん、好きなんだけどな、今も。
 でも手を出すと、色んな国に睨まれるから怖くて手を伸ばせない。好きな子を口説けないなんて、イタリアーノ失格。
 はぁっと溜息を漏らしていると、いつの間にか話題は艶っぽい猥談の方へと流れ初夜の様子へ変わっていった。初めはがちがちに緊張してただの、慣れるのに時間がかかったのだの、当人たちの惚気た自慢はイタリアには耳を塞ぎたくなるようなものだった。
 逃げだしたい。どうせこちらが起きている事に気づいていないのだし、さっさと外に出て行ってしまえばいい。どうせイタリアの事など見えてない。彼らは同じ特別な存在しかライバルだと思っていないのだから。
 だがそれが悔しくて、外野にさえ安全だと思われているのが悲しくて、イタリアは立ち上がると思わず声をかけた。
「ねえ、その話……俺も混ぜてよ」
 驚いたような四対の瞳がイタリアへ向けられる。驚きはやがて嘲笑へ、ヘタレが何の用だと言わんばかりに歪められる。
 だがイタリアは虚勢の仮面をつけて微笑みを返すと、
「俺も夫の一人として……その話、混ぜてくんない?」
「お前が……夫?」
 嘲りと苛立ちが半々になったようなイギリスの鋭い視線が、イタリアを刺す。
「笑えないジョークなんだぞ、イタリア。俺の恋人に夫なんて居ないよ?」
 アメリカの牽制。だが、蜜月をぶち壊されたオランダが、ぷかりと紫煙を吐き出すのと同時に皮肉を零した。
「無理やり分かれさせた旦那なら、ごまんと居るかもしれんがの」
「煩いんだぞ、君は」
「でも、イタリアちゃんがあいつに手ぇ出してたなんて俺様知らなかったぜ。一言いってくれりゃあ良かったのによ……」
 プロイセンの値踏みするような視線に、イタリアは酷薄な笑みを返す。いつものぽやんとした空気を消して、むしろ兄ロマーノの領分に近いイタリアの暗黒面を顔に浮かべる。
「えぇ? そんな事プロイセンに言えないよぉ。俺に愛弟子が寝取られたなんて知ったら、可哀想でしょう?」
 完全に名指しで喧嘩を売ってきたイタリアに、イタリアびいきのプロイセンも流石に青筋を浮かべた。へぇ、と呟いてドSの真骨頂とも言える嗜虐的な笑みが唇に乗る。
 だが、イタリアの先制攻撃は続く。
「むしろさあ、どうして俺との関係を今まで疑わなかったの? 俺が……このイタリア・ヴェネツィアーノが三国同盟の時に何もしなかったなんて、思ってないよね?」
 同盟の名の特殊性に、思わず四人は口を噤んだ。プロイセン以外は連合側だし、枢軸の国々で何があったかなど知るはずもない。そして、プロイセン自身もあの頃は国内外のごたごたを片付けるのに必死で、イタリアの接近を気にしている余裕はなかった。
 その沈黙にイタリアは勝利を確信し、ぺろりと舌先を出す。
「あんまりイタリア男を舐めないでくれない?」
 挑発が沸点の低い男たちの脳を十分に刺激したその時、ひょいと部屋の中からが首を伸ばし、休憩時間の終わりを告げた。まじまじと向けられる五人の視線に、はどうしたのですか、と小首を傾げる。
「いや……べつに」
「君が気にすることじゃないんだぞ」
 イギリスは振り上げた拳を下ろし、アメリカは掴み上げた胸ぐらをしぶしぶと離した。依然として不思議そうな顔をしていただったが、
「ヴェー、俺のこと探しに来てくれたんだねぇ! ねえねえ会議の後はヒマ? 俺すっごく素敵なリストランテ見つけたんだよー。美味しいパスタとねー、に似合いそうな可愛い色のロゼをおいてるんだー。実はもう日本とドイツも誘って予約してるんだよー」
 と、イタリアに怒涛の如くまくしたてられて疑問符を浮かべながら、会議室へと戻っていった。
 その背を押しながらイタリアはふと四人を振り返り、挑発の笑みを一つ。それに応じるように、四人はそれぞれに沸点と冷点を超えた鋭い視線を送ってくる。
 ああ、本当は楽しく騒いでいれれば良かったのに。怖いのも、痛いのも、人と喧嘩するのも嫌いなんだけど。 
 でも、仕方ないよね?
 だって俺、可愛い女の子が大好きなイタリアーノだから。

end


プーはご飯に誘わない?というツッコミはなしで。