史実ネタ微妙に含みます。
アルが病んでます。
フィクションとしてお楽しみください。
072.拒絶反応
実を言うと彼女のことを俺はずっと昔から知っていたんだ。
アーサーが柄にもなく懐中時計に絵なんて忍ばせていたからね。それを小さい時、盗み見た事がある。恋人かと聞くとあの人は例の如く面倒くさい言い訳をしてたけど、でもそれが何よりの答えだ。子供ながらにアーサーの片思いなんだと理解した。
後になって知ったことだけど、昔日本にはアーサーんちの商館があったんだってね。スペインとかオランダとか色んな国とのごたごたがあって、引き払ってしまったようだけど。それでも彼女の事はこうしていつまでも忘れていないなんて、育ての親ながら女々しいなって思った。
アーサーはそれきりその絵をどこかにやってしまって見せてはもらえなかったけれど、俺はずっと彼女の姿を覚えていた。あの絵との出会いはすごく衝撃的で、陳腐な表現だけど雷に打たれたみたいなショックだったんだ。
不思議な東洋の服を着た黒髪、黒目の少女。絵の中のあの子はどうして微笑んで居ないのだろう、とそれが不思議だった。そしてあの子の笑顔を見てみたいなと、いつの頃から思うようになっていた。
だから俺は会いに行ったよ。上司の意向は俺の意思に沿わないものだったけれど、でも日本への渡航が許されるならそれで良かった。
オランダの奴が色々と邪魔してきたけど、あいつの力はもう俺には及ばなかった。幕府の人間も俺と彼女が会うことをすごく嫌がったけど、反対意見なんて認めないんだぞ。
それで俺はようやく彼女に会ったんだ。
彼女は俺の想像よりもずっと小柄で、子供みたいな顔をしていた。日本人というのは元々子供っぽい顔をしてるけど、彼女のそれは明らかに異常だ。日本はずっと昔からある国なのに、鎖国のせいで成長出来なかったんだと思った。だから最初はノリ気がしなかったけど、俺は上司の開国要求に全面的に協力したよ。いくら国の一部でも、いつまでも子供の姿でいるのは不自然だからね。
ようやく日本が開国して、俺はもっと簡単にに会えるようになった。他の奴らが便乗して条約を結びに来るのが不愉快だったけれど、と条約を結んだのは俺が一番だからね。
俺は浮かれていたんだと思う。それに若かった。
が俺のことを、たまに聞き分けのない子供でも見るみたいに困ったような顔で見るんだ。俺はそれが嫌だったんだけど、でもに嫌われたくなくて甘んじて受けた。が俺よりもずっと歳上だと知っていたし、俺も国になったばかりでまだ考えが甘いところがあった。国内でゴタゴタもあったし、これからゆっくり関係を進展させていけばいいと思った。
それがいけなかったんだ。
西欧化を推し進める日本の上司が、アーサーの所と同盟を組んでしまった。アーサーにも色々腹づもりがあっただろうけど、まあ、ものすごい喜びようだったよ。まるで夫婦にでもなったような顔だった。お前のためじゃないんだからな云々いいながら、あの人はネイビーの知識を全部に与えてしまった。
恨むよ、アーサー。そのせいで未だにのところの海軍は英国式なんだ。
数年ぶりにあったは、アーサーのとこみたいな軍服を着て俺に敬礼を寄越した。最悪だ。俺はあの長い黒髪が好きだったのに、カラフルな着物が好きだったのに。あの陽だまりのような空気はどこかに行ってしまって、殺伐とした雰囲気が身体にまとわりついていた。刀なんて物騒なものも帯刀するようになった。
同盟が失効した時、アーサーは俺に恨み事を吐いたけど俺は気にしなかった。だってこんな事は間違っているじゃないか。は君のものじゃないんだよ。にあんな格好は似合わないよ。それを、全世界に理解らせてやらなくちゃ。
その頃から、俺は頭をつかうと言うことを覚えた。世界を舞台にして、どうすれば反対意見なんて出なくなるかを考えたんだ。
俺だけが求めるだけじゃだめなんだ。も俺を求めなくちゃ。
そのためには可哀想だけど、少し辛い目を見てもらわないといけない。心配ないよ。ちゃんと最後にはHEROが助けてあげるからね。ヒロインはヒーローに救われてハッピーエンド。それが正しいシナリオだろう? これ以上の物語があるかい?
そう、それ以外の物語なんてあっちゃいけないんだよ ――――
理解るよね、俺の?
「君はあの頃と何も変わらないね」
の着物姿を一頻り眺めた後、アルフレッドはぽつりとそんな事を呟いた。あの頃と言うのが何時のことかには分からなかったが、彼が満足そうにしていたので余計な口は挟まないでいた。
また何か思いついたのだろう。突然、今日の世界会議は着物で来るようになどと言われて驚いたが、彼の思いつきはいつもの事だ。
こういう事には、慣れている。
「やっぱり君には着物が似合うね。すごく素敵だ」
「……恐れいります」
「でも、他の奴らに見せるのは勿体なかったかな? 君、今日は誰と何回ハグをした?」
「え?」
「だから。誰と、何回、ハグをしたんだい?」
そのほほ笑みには恐怖した。世界会議の場で他の国々と挨拶をするのは当然だし、着物を着ているせいか、今日は皆から引っ張りだこだったのだ。
そもそもこんな格好で着たのも、アルフレッドのリクエストを受けてだ。他の国からの要請ならきっと断っていた。悋気を覚えるようなものではない。
「あの……何か勘違いを、」
いいかけたの言葉を、アルフレッドは手の平を上げて制する。言い訳なんて聞かないよ、とでも言うように。
徐にの手首を掴み、奥へと向かう扉へ誘う。その先に何があるかなど、確かめるまでもない。
重い足取りのを咎めるように、彼は振り向いて言うのだ。
「何をもたもたしてるんだい? 早くおいでよ」
「アルフレッドさん……」
「早くおいで。君の意見なんて聞いてないんだぞ」
end
暗いし、暗いし、そして暗い。
拒絶してるのはアルの方。
ヒロインが自分の意見を言おうとすると、拒絶して黙らせてしまう。
四カ国同盟以降がおざなりですが、もっと丁寧に書けば良かったなーと後悔。