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063.八つ当たり




 第七師団副団長・阿伏兎は後天的不幸体質である。
 べつにMっ気があるわけでも、いじっめられたそーな顔をしているわけではない。というか、こんないい年したオッサンを苛めたいなどと思うやつはビョーキだ。ドSという不治の病にかかっていると思う。
 戦闘種族・夜兎の名に違わぬ凶暴な気質。同胞は大切にするが、それ以外の種族など虫けらほどにしか思ってない冷淡さ。シニカルな笑みを浮かべつつもその本性は常に血に飢えている。戦塵と返り血と硝煙が似合う男なのだ。
 が、
「阿伏兎のバカ! 更年期! 加齢臭!」
 人を罵倒するにはいささか違った角度からえぐって来る罵詈を放ちながら、の伸ばした足が綺麗に宙に弧を描き、阿伏兎の側頭部を横殴りにした。続けてよろけた所を三段蹴り、ダウンしかけたところで胸倉をつかまれそのままボッコボコに殴られた。
 一見、虫も殺さぬような可憐な少女に、だ。
 少女、はわあん、と大声でわめき、暴れ、泣きじゃくると、トドメに阿伏兎を壁にめり込むほど強く蹴り飛ばし、そのまま扉をぶち破いて泣きながら走っていった。
 エジプトの壁画のように壁にめり込んだ阿伏兎は、ぼたぼたと片方の鼻腔から鼻血を垂らしながら思う。
 え? あれ? 俺が悪いの?
 が暴れた原因は確かに阿伏兎の一言にある。最近、神威が仕事に自分を連れてって入れない事を愚痴ったに、団長にも男の事情があるんだろーよ、とにやにやしながら告げたのだ。
 冗談のつもりだった。むしろ、ならばバカじゃないの? 不潔、サイテーぐらいの切り返しをしてくると思った。
 だから、思わずがぽろりと涙を零し、乙女らしい反応をした事に驚いたのだ。
 だが、その後の行動がまったく乙女らしくなかった。なんだあのパンチは。象でも殴り殺すつもりなのか。自分が夜兎でなかったら間違いなく第一撃で死んでいた。
 だいたい、いくら自分の一言が原因とは言え、神威に文句があるならば神威に直接言えばいい。こんな風に殴られるのは、一割は自分のせいかもしれないが、残りはただの八つ当たりである。
 こういうところが不幸体質だ。
 はぁっとため息をつき、阿伏兎はぼこりと壁の中から四肢を抜いた。
 が、
「ねえ、がものすごい勢いで泣きながら走っていったんだけど。何があったの?」
 笑顔で。
 それはそれは極上の笑顔を浮かべ、我等が団長様が阿伏兎の前に立ちはだかっていたのである。
「や……いや、それは……」
 体中の毛穴という毛穴から汗がにじみ出そうな威圧感。
 アンタが原因だとか、今言って慰めればムフフな展開もあるかもだとか、そんな言葉を返す余裕はなかった。
「とりあえず殴る。理由はその後、聞く」
 そう宣言して、腕を振り上げた神威を前に――――
 俺って可哀想。
 そう思う阿伏兎なのだった。




end


可哀想ポジション阿伏兎。いつもごめんね、理不尽な扱いばかりで。