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061.仕草





 まったく嫌になっちゃうよ、と。
 炭火を煙管の先で転がして火をつけると、半兵衛は一呼吸の後に唇の端から紫煙を吐き出した。見様によっては元服前の子供のようにも見えるその童顔で、慣れた手つきで煙管をくゆらせるのだから奇妙な光景と言わざるを得ない。
「飯屋で冷酒を頼もうとしたんだよ? べつに下戸でもないけど上戸ってわけでもないじゃん、俺。ただなんとなーく晩酌もいいかな、なんて思って。そしたら店の店主が、酒飲める年になったらまたおいで、だってさ」
 ホント失礼だよねぇと愚痴りつつ、再び唇から白い煙が漏れる。
 話は耳に入れているものの、先ほどからの注意は半兵衛の吐き出す紫煙にばかり集中している。半兵衛が煙管を蒸すのを見るのは初めてではないが、どうにも慣れぬ光景である。
 少年のような顔をしているくせに、煙管を咥える姿は歳相応に大人びて見え、その不均衡な光景がの胸に緊張を走らせる。こういう大人びた半兵衛は苦手だ。自分の見知らぬ顔を見てしまったようで落ち着かないし、ぼたもちでも頬張っていてくれた方が、遥かに安心する。
「それは災難でございましたね」
 そんな言葉を口にしつつ、視線は半兵衛の手にした煙管の先へ。
 特段嗜好を凝らした高級品というわけではないが、普通の町人には持てぬ良い品である。よく手入れされ使い込まれた柄の部分が、良い感じに色褪せ新品には出せない味わいを出している。それだけ長い年月を共にしているのだと思うと、何とも奇妙な感じがして、またの胸はどきりと跳ね上がるのだ。
「客商売ならいい加減、顔を覚えてもらいたいものだよね〜」
 再びぷかりと紫煙が浮かんで。独特の香りに脳が痺れる。
「ねえ、俺ってそんなに子供っぽい?」
「……いえ」
 こんな状況で尋ねられて、子供っぽいなどと返せるはずがない。だが半兵衛は本当にそう思ってる〜? などと疑って、煙管片手にの俯いた顔を覗き込もうとする。
「本当です」
「なら目、逸らさないでよ。こっち見てくんなきゃ信じられないじゃん」
 ぐいと無理やり自分の方を向かせて、朱に染まりかけた目元を一瞥し、半兵衛は意味ありげに笑った。
「……なんですか」
 なんだか悔しくて顔をしかめて見せても、半兵衛はくつくつと笑みを零すばかりだ。
「べつに〜。や、にこんな顔させられるなら、俺の大人の色気も捨てたもんじゃないなぁって」
 嬉しそうな顔でにやにやと笑う半兵衛を前に、そんな事もとから思ってもいないくせにとは胸中でごちた。目を細めて煙管を咥える半兵衛が、なんだかいつも以上に憎らしかった。




end


いわゆるひとつのギャップ萌え。
半兵衛は酒も煙草も女もほどほどにやると思う。