057.濡れ衣
「ねえ、雨宿りさせてもらっていい?」
濡れ鼠ならぬ濡れ兎が万事屋を訪れたのは、正午過ぎのこと。
新八も神楽も出かけているので、今日はこれでいいやと具なしチキンラーメンを昼飯に、いいともを観ていた時の事だ。
箸を片手に玄関を開いた銀時の目の前には、長い髪の端からぽたぽたと雫を零しているの姿。
以前、ひょんな事から万事屋に転がり込んできた、夜兎の女だ。
「あ〜……え、っと、ちゃん?」
確か神威に連れられて春雨に戻ったはずだが、なぜそのが地球にいるのか――――しかもずぶ濡れになっているのか分からない。
「夜兎なら傘いつも持ってンじゃないの?」
と、久しぶりの再開にしては、変な疑問が口を突いた。
「私ハーフだから、日傘あんまり要らないんだ。邪魔になるし、普段から持ち歩いてないの」
と色々初耳な情報を返しながら、は目で入っていい? と尋ねる。さすがにずぶぬれの女を門前払い、というわけにも行かないので中へ招き入れると、は勝手知ったる他人の家とばかりに、洗面所からタオルを持ち出すと、ごしごしと頭の先から身体をふいた。
体中から滴る水滴をぬぐいながら、
「またこんなもの食べてるの? ちゃんとお野菜も取らないと駄目だよ」
と、まるで母親か彼女のような口調で言う。
万事屋に居たときは炊事洗濯を完璧にこなしており、栄養が偏りがちな万事屋のメンバー――――特に神楽にはすごく感謝されていた。確かにの作る料理は美味しいし、こんな女が彼女ならそれはそれで嬉しいのだが――――すぐにそんな考えを、頭の端へ追いやる。
「で、なんで地球なんかにいンの?」
銀時の問いにはお仕事、とそっけなく応えた。
可愛い顔をしていても、相手は宇宙海賊春雨の団員。仕事というのは、それなりに胡散臭い内容なのだろうが、銀時はあえてそれに触れず冗談めかしてぼやいてみせた。
「あんだァ。さびしーだろーが、嘘でも銀さんに会いたくってとかいいやがれ。コノヤロー」
少しだけ期待を込めてそんな事を言う。
と、
「それもあるよ。銀さんに会いたかった」
ふいにじっとの紅い瞳が真正面から銀時を見つめる。
きっと、だからビニ傘も買わずにこんな所まで来たという、それだけの理由に違いない。たまたま江戸に来たから、ずぶ濡れついでに歌舞伎町へ。きっとそんな思いつきに違いない。
だが、濡れた髪の張り付くの白い顔や、水分を吸ってぴったりと身体に張り付く濃紺のチャイナドレス、そこからすらりと伸びる艶かしい脚を見ていると、それ以上の意味を深読みしてしまいそうになる。
運命のいたずらで奪われるように去って行った女。だが、女は男の事が忘れられず、再び男に会いに行く。雨で冷えた身体を震わせ、濡れた瞳でじっと見つめると、女は恥ずかしそうに――――
「マーボーでも作ろうか?」
妄想の世界に飛びかけていた銀時は、思わぬ言葉で現実に引き戻された。ロマンチックもへったくれもない言葉に顔をしかめると、がん? と小首をかしげる。
「それだけじゃバランス悪いしさ」
と、すっかり伸びきったチキンラーメンの沈んだどんぶりを指差す。
銀時はまるまる一拍、腑に落ちんと言った顔でを見つめてから、
「……お願いします」
「はい。お願いされます」
は微笑むと、私もお昼まだなんだ、などと言いながらキッチンへ向かうのだった。
end
ちょっとヘタレっぽいですね。
きっとこの後、服濡れちゃったからなんか服貸して、とか言われて
また勝手にドキドキするんだと思います。