この話には長編「人狼の館 2nd night」のネタバレが含まれています。
問題ない方のみお進みください。
051.平行線
この遊戯がなぜ始まるのかを、今まで考えた事があっただろうか。
なぜ自らはこの館に囚われ、粛々と理不尽な遊戯を受け入れているのかそんな事を疑問に感じた事はなかった。只そうしなければならないという、強い強迫観念にとらわれていたからだ。
だが今になって、これは終わりのないババ抜きなのではないかと思う。
単純に人外という悪があり、罪もない村人が食い殺される。そんな遊戯ではなかったのだ。
『そう。例えば今のお前と同じ境遇だ』
空気を介さない声が脳に直接響く。
念話。妖狐と子飼いの狐を繋ぐ精神感応だ。
三成は円座の一つに腰を下ろし明後日の方向を向いていたが、その唇の端がわずかに釣り上げっているのを半兵衛は目ざとく見つけていた。
そう。同じ境遇。ババの押し付け合い。
この笑っている男も達観者のような笑みを浮かべこそすれ、この閉じられた空間と呪いのように反芻される遊戯を拒みきれない。
『お前には尾が二つある。には一つ。この意味が分かるな、半兵衛?』
『わかってる。少なくとも二人は殺れって事でしょ?』
『話が早くて助かる』
もし三成の側に居たなら、半兵衛はきっと彼の忍び笑いを耳にした事だろう。
結局はこの男も愉しんでいるのだ。むしろ愉しみでもしなければ、やっていけないのだろうか。
妖狐の尾は負け星の証だ。先の遊戯で受けた負け星が妖狐の尾や、人狼の牙の数になる。先の遊戯で騙され、屠られた者が今度は騙し、屠る側に代わる。これはそういう遊戯だ。
まるで積み上がった債務を周りに押し付けるように、罪の意識を減らしていく。負け星を無くし、見事人として勝利できた時、初めてすべてを忘れられる。
こんな遊戯などなかったのだと。何ひとつ自分は失っていないのだと、そう思うことが出来るのだ。
半兵衛もも、自らに生えた尾を誰かに押し付ける事で人間に戻ることが出来る。今度こそ、共に平和な日常に戻れるのだ。
『もしも勝てぬと感じたのなら、今回は引き下がるというのも手だぞ? 幸いお前は俺に負けて尾を手に入れたわけではないからな。一本の内を誰かもう一人に分け、使役できる仲間を増やしても構わない』
『それで? 次の回に希望を託せってこと?』
『そうだ』
三成の応えに、思わず半兵衛は肉声で笑ってしまった。小さく鼻で嗤う程度のものだったため、誰の耳にも届かなかっただろうが、三成だけが冷ややかな視線をこちらに向けていた。
血の滴るような紅い双眸。
そう見えるのは、半兵衛自身が三成の眷属であり、自らも同じ色の目を有しているからだ。
『まあ、どうなろうと俺は構わん。せいぜい天才軍師殿のお手並み拝見といこう』
あちらも嘲るように笑って、そこでぷつりと念話は切れた。
意趣返しに三成の尾の理由を聞いてやりたがったが、残念ながら念話は一方通行で、半兵衛から声をかけることは出来ない。
妖狐の目にだけ映る、三成の背後に揺れる金色の尾を眺めながら半兵衛は密かに思う。
この男は今までどれだけ多くの人間のババを引いてきたのか。屠られ、騙され、傷つく内に、やがて自分もそれをする側へ ――――
人外へと堕ちた。背後に揺れる六つの尾、そして半兵衛とに分け与えた三つの尾は、まるで彼がこの遊戯に飽いてしまった証拠のようだ。今更、尾がひとつふたつ増えたところで何も変わらぬと、諦観しているようにも思える。
この遊戯は一体いつまで繰り返されるのだろう。人狼も、妖狐も、人間も、四方を閉ざされた箱の中でぐるぐると回り続けている。
「半兵衛様、大丈夫ですか?」
半兵衛の浮かない表情が気になったのか、ふいにが半兵衛の袖を引いた。
「俺は……大丈夫だよ」
何でもない振りをするため無理矢理に笑みを作る。心配げな顔をするにも妖狐と耳と尾が生えていた。が人間に戻り、この遊戯から抜けるには、少なくともあと二回勝ち星が要る。それまで延々と、ぐるぐると、この箱の中を廻り続ける。
人として死なせてやった方が幸せだったのだろうか。喩え狂気に目を曇らせていたとしても、人の道を踏み外す方がよっぽど不幸な事なのではないか。
過去の葛藤に囚われる度、いつも頭が痛くなる。すでに運命の岐路は通りすぎてしまったというのに、それでも詮無き事と思いながら考えることをやめられない。
きっと半兵衛は何度も繰り返し思うのだろう。この箱の中に放り込まれるたび、これから幾度も。そしてやはり同じ結論に至るのだ。
「それでも俺は君が居ない世界は嫌なんだよ」
end
「茜雲」に続きいつも「赤」ルートのお話。
いつもロンリーな妖狐陣営ですが、オプションで子狐などを増やす事が出来ます。
みんなで尾(負け星)をなすりつけあって、妖狐陣営の人数が減ったり増えたりしてたら切ない…という妄想。