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!CAUTION!
史実絡みませんが軍拡っぽいお話なのでご注意をば。
暗いです、殺伐してます、夢要素皆無。
問題ない方のみお進みください。






































046.変装





 小柄な背丈、華奢な身体、桜貝のような爪の先から、絹糸のような髪の毛の先まで。
 すべて、特別に神様に愛されて誂えられたような顔をしているくせに。
 鋭い刀の先端で侵入者の命を屠るその様に慈悲は無かった。
 ただ、敵を排除する。その目的のために動いている。これはそういう兵器だ。
、もういいですよ」
 菊の声に、はようやく刀を掴む手を緩めた。顔に散った鮮血を、手ぬぐいでぐしぐしと拭うと、自分に注がれている視線に気づき恥ずかしそうに頭を下げた。
「も、申し訳ございません、端ない所をお見せして……」
「いや……」
 端ない? それは着物姿で日本刀で敵をぶった切った事か? それとも血まみれに汚れている今の姿の事か?
 お前はお前の狂気を知っているのかと、問い詰めてやりたくなった。
「ギルベルト君。申し訳ありませんが、湯を貸してやってはもらえませんか。女子が血なまぐさい匂いをさせているなど、よくありません」
「ああ……」
 いけしゃあしゃあと話す菊を一睨みし、ギルベルトは使用人にを風呂まで案内させた。ついでに自分たちも場所を変えた。いくら死んだのが敵国の人間でも、血の匂いは嫌いだ。
「てめえ、あれは何だ」
 庭園を望むバルコニーでギルベルトは菊を問い詰めた。
「あれ、とは?」
 菊はその幼気な姿から想像出来ぬような、老獪な笑みで応える。
「惚けるんじゃねぇ。孫をあんなバケモンにしやがって」
 本田の事をギルベルトは多少なりとも知っている。開国後、彼も条約を結びに日本を訪れた事があったからだ。
 その時に会ったは、成長途中というよりも栄養不足で成長を止められた欠食児童のような印象だった。長い鎖国生活が本来港湾としてあるべき役割を強く制限していたのだから、そうなるのも当然だった。ちっぽけな、子供。それを愛玩動物よろしく着飾らせている。これがこの国が長い間、内に閉じ込もり続けてきた代償なのだ。あれで自分と同い年、あるいはそれ以上の年月を生きているのかと思うと吐き気すら覚えた。
 国の一部として産んでおきながら、成長させないだなんて欺瞞じゃねぇか。そう毒づいた覚えが確かにある。
 だが、今のあの姿は更に歪だ。
「化け物とは失敬な。貴方が我が国の軍事力を見たいと仰ったのですよ」
「だから見せたってか? ちょうどいい所に殺しても構わない人間が現れたからな! ふざけんなよ、てめぇアイツの事を何だと思って、」
 言いかけて、覗き込んだ菊の暗い瞳の奥にギルベルトは途方もない闇を見つけて、思わず息を呑み込んだ。
 コイツは……こんな目をする奴だっただろうか。いつからこんな目で、俺を、世界を見るようになった。
「あの子は私の一部ですよ。我が日本の主要港。今や我が国になくてはならぬ存在です」
「俺の知ってるアイツは……なんな物騒なモン振り回すやつじゃなかったけどな」
「仕方がないでしょう。列強の脅威に晒されている状態で、世論には逆らえません。国民が強い国を望んだのです。ただの貿易港が軍港へ変わるには、十分な出来事が起こりすぎた」
 成長はした。手足も長く、背丈も高く。身体も大きく、皆に負けぬようにと。
「しかし……あんな嬢ちゃんに戦場を歩かせるなんてな……せっかくの可愛いツラが台無しじゃねぇか」
 その言葉に菊は鬱屈した笑みを零した。
 ギルベルトを笑っているのかと思いきや、それは自身へ向けられた嘲笑の笑みだった。
「そんなもの……意味がありませんよ」
 あれだけ大切に、可愛がっていたのに ――――
「私達の姿形など所詮見せかけ。意味などないのです。私は土。あの子はただの……鉄の固まりです」

end


最終兵器孫。
大切にしてた孫を、改造手術しちゃった爺の気持ち。
そして軍港が戦艦を産む時代へ。