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042.顔見知り





 水盆に花を活けるように、その艶やかな黒髪にはかんざしがよく似合うと思っていた。季節の花を模したかんざしを、訪れる度に贈ったのはそんな想いがあったから。なにより装飾品を贈られれば、はそれを付けざるを得ない。そうやって支配欲を満たしている事に、罪悪を感じる事はなかった。
 自他共に倹約家 ―――― 他人はただのケチだと言うが ―――― を自負するオランダにとって、物を贈るというのは特別な意味を表す。
 国庫ではなく自分の財布を開くのだから、本当に気に入ったものを、気に入った相手にしか贈る事はない。相手がそれを知る必要はないが、財布を開く度にそれだけ自分にとって大切な存在なのだと自覚させられ、店先で一人で耳を赤く染める。
 言葉にする事はないが、だいぶん自分も狂わされたものだと自嘲するように笑むのだ。

「あ……ご無沙汰しております」
 日本が鎖国を解いて、数年の後。とある外交の席で再会したは、戸惑ったような顔でオランダへと頭を下げた。
 短く切りそろえられた髪が揺れる。あの長さではもうかんざしは挿せないだろう。
「おう。息災か」
 煙管を片手に問うオランダには遠慮がちにはい、と答えた。伏せられた瞳はオランダを見ようとはしない。まるで怒られるのを恐れるかのように、びくびくと肩を震わせている。
 開国と共になだれ込んできた西洋への恐怖か、それとも、髪を切った事を咎められるのを恐れているのか ――――
「息災ならそれでええ」
「あれ、君たち知り合いだったのかい?」
 開国の一番の要因となったアメリカが、ひょいと首を伸ばして尋ねた。知り合いも何も、鎖国中は蜜月の仲だ。鎖国中もが出島での外交を司っていた事を知らないのか、それとも単に試しているのか。
 この年若く自信に満ちた国をオランダは一瞥し、虚空にふうっと紫煙を放つ。
「……ただの顔見知りやざ」
 は少しだけ驚いた顔をし、そして伏目がちにしながら頷く。
「はい……ちょっとした、顔見知りです」

end


蘭兄さんの話なので、今回は国名表記です。
兄さん、オランダ語難しいよ。難しいよ……