037.勘繰る
ひとり、ふたり、さんにん、よにん……
視線で人数を数えているうちに面倒くさくなって、フェリシアーノはあーあと小さくため息をついて椅子の背もたれに身体を預けた。
数年に一度行われる会議には、いつもの面々が顔を出し、いつも通り全く進まぬ議題を話し続けている。どうせ着地点などないのだから、早くこんな会議など切り上げてランチにすべきだと真面目に思う。こんな事をするよりパスタを食べながら話したり、一緒にシエスタをした方が何倍も互いを理解できるのに。
もちろん怒られるのが嫌だから口には出さないが、さっそくフェリシアーノは会議に飽きてしまい、別のことを考えながら各国の面々を眺めていた。
アルフレッドは当然そうだよね。何かと日本に入り浸ってるし。俺たちの中で一番、に会ってる機会が多いはず。あー、邪魔。
アーサーは……ほんとしつこいよねぇ。一体いつまで相棒ヅラしてるの? 同盟が切れてからもう百年たってんじゃん。
胸中で毒を吐きつつ、だが決して邪気を表面に出さないようにしながら、フェリシアーノは視線を巡らせていく。
フランシス兄ちゃんは安牌だと思いたいけど……気を抜けないよね。に警戒されてるから、そのぶん驚くくらい紳士的に接してるし。それだけ本気ってこと? 油断できないな。
ルートは安全かなぁ。同盟中も何にも出来なかったし、俺の気持ちよく知ってるもんね。でも、念には念を入れて。この後しっかり釘をさしておかなくっちゃ。
イヴァンは要注意。も怖がってるみたいだけど、なんか強引に攫っちゃいそうな所あるから気をつけなくっちゃ。そんな事したら容赦しないけどね。
菊はのお爺ちゃんだからライバルにはならないけど……一番の障害でもあるんだよね。菊ってのこと溺愛してるし、普段はあんなに温厚なのにの事になると鬼になるんだもん。前に刀持って追いかけられた時はヤバかったなぁ。
えーっと、次は……誰だっけ? あ、マシューだ、マシュー。んー、よく知らないけど大丈夫そうかな? 好き好んで激戦区にやって来るようなタイプじゃなさそうだし。
兄ちゃんは、ダメ、絶対ダメ。同じイタリア男だもん、絶対負けられないよ。だいたい先に好きになったのは俺の方なのに! とにかく兄ちゃんには絶対渡さないから。
ぐるりと会議室の中を視線で一周し、フェリシアーノは再び小さくため息をついた。
あーあ、前途多難。
G8の中でもほとんど気を抜けない相手ばかりだ。これがもし世界会議なら、一体何カ国がライバルになるのだろう。
そんな中で自分が意中の相手の心を射止めるなど、奇跡のような出来事のようにも思える。彼女とは長い付き合いだが、一向に関係が進展しないのだから実はルートヴィッヒを笑う資格はフェリシアーノにもない。
時に冗談っぽく、時に真面目に何度も告白したが、フェリシアーノの想いは彼女に伝わらない。そもそも国同士がそういう感情を抱くということを、は信じていないのだ。きっと自分が彼女を好くのは、イタリア国民が日本という国に好意的な感情を抱いているからだと思っている。
国民の感情も少なからず影響しているかもしれないが、フェリシアーノの好きはそれとは違う。国や国民とは関係なく、男として彼女を愛している。一人の女性として幸せにしたいと思っている。
だが、その気持ちは中々伝わらないのだ。
想いを伝え始めて、はや一半世紀ほど経っているが、一体いつになったら振り向いてくれるのだろう。他の国に奪われないかと、内心いつもヒヤヒヤしているのだ。
「あーあ、前途多難……」
呟いてテーブルに突っ伏すと、議題を進めていたルートヴィッヒから厳しい叱責が飛んだ。だがフェリシアーノの心は未だ上の空、想い人の事を考えるあまりルートヴィッヒのお説教すら右から左へ耳を通り抜けていくのだった。
end
会議は上の空だけど、ライバルはしっかりチェック。
だってイタリア男だもの。