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033.猫なで声





 ナァン ―――― と、ふいに猫の声が響いたような気がした。
 振り返ってもそこに猫は居ない。居るのは人の姿をした黒猫。黒髪黒目黒装束と三拍子そろった黒尽くめの少女だ。
 幻聴かと思いきや、よもやこいつの正体は猫なんじゃないかと思い、思い切って尋ねてみた。
「なあ、実はお前、猫なんじゃないか?」
 イギリスの問いにきょとんと目を丸めただったが、すぐにしたり顔でおや、バレてしまいましたか、などとうそぶく。
「うまく化けたつもりでしたが、さすがイギリスさんですね」
 などと笑っている。長い睫毛を伏せ目を細める様子など猫そのものだ。
「まぁな。黒猫は魔女の使い魔って決まってるだろ?」
「西洋ではそうなのですね。東洋では使いに選ばれる事はあまりありません。猫は気まぐれですし、化けるものなのですよ」
 私のように、とは首を傾いで笑って見せた。
 知ってる、とイギリスは不敵な笑みでそれに応じて、指先での顎の下を撫でる。喉を鳴らす代わりにはくすくすと笑みを零した。
「あなたは私が怖くないのですか? 化け猫は人を取り殺すのですよ?」
「俺が化け猫程度を恐れると思うか? 逆に退治してやる」
「あら、怖い。では、不用意に近づかないようにしませんと」
 笑って一歩退くと、イギリスはの手首を掴んで逆に自分の方へと引き寄せた。腰から臀部のあたりのラインを撫で上げ、尻尾がねぇな、などと言ってのける。
「セクハラですよ?」
「本当に化け猫かどうか確かめたんじゃねぇか」
「なら、見抜けなかったのですからお離しください」
「駄目だ。メスの猫は男の精を吸い尽くすんだろう? そんな悪い奴は俺がしっかり退治してやらないとな」
 そう言って片手は腰に巻き付け、もう片方の手で器用にのシャツを脱がし始めた。それは中国さんの所の猫の話ですけれど、とは冷静に反論したが、当のイギリスは聞く耳を持たずシャツのボタンをもどかしげに外しにかかる。
 が誑かす以前にすでに理性を自身で放棄してしまったイギリスに、は呆れたような声を上げた。
「こんなに簡単に術中にはまって……取り殺してしまいますよ?」
「は、やってみろよ。返り討ちにしてやる」
「まあ、大層な自信ですこと。これは獲物を見誤ったかもしれませんね」
「安心しろ、殺さねぇよ。たっぷり可愛がってから俺の使い魔にしてやる」
 告げて、お喋りはここまでだと言うように、イギリスは唇をはだけた胸元へと寄せた。その頭を愛おしそうに抱え込みながら、はくすくすと笑みを零す。
 そして甘い声で男を誘うように、ナァンと猫の鳴き声を真似てみせるのだった。

end


化け猫云々は方便ですが、取り殺す、退治してやる、は本音だったりすると良い。