029.悪趣味
首にぶら下がった黒いレザーの首輪。トゲトゲのついた環の先から鎖が伸びていて、その先端は男の右手に握られている。
夜兎でも壊せない頑丈なつくりのソレ。首の肉にぴったりと密着し、同化してしまっている。
は冷ややかな目でそれを見つめて、ぽつりと呟く。
「悪趣味だね」
冷たい視線を向けられた沖田はむしろそれが賞賛の言葉であるかのように、にやりと笑みを浮かべた。
沈んだ色を収めたまま、の紅い瞳が沖田を凝視している。
「ねえ。私どっちかというとSだと思うんだけど」
「弱いSは強いドSの前じゃ、ドMに成り下がるもんでィ。わかったら四つん這いになんな、このメス豚が」
沖田の挑発を受けてもなお、の表情に変化はなかった。長い睫毛に囲まれた血の色をした紅い大きな目が、じっと沖田を見据えている。は小首をかしげ、それで? と尋ねた。
「首輪を外して。私には地球の警察にこんな事をされる覚えはない」
「そうかい? 虐められたそうなツラしてるから、誘ってんのかと思ったぜィ」
「なにが?」
「白兎」
一瞬、平静を続けていたが、ぴくりと眉根をひそめた。その僅かな反応に、沖田は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「アンタぁ、性玩具の白兎なんだってなァ。さんざん虐められぬいた真性Mが、どんなモンか見てみたくてねェ」
沖田の嘲りを含んだ笑みに、は表情を元へ戻す。平静を装った白面のような顔――――だが、真紅の瞳が先ほどとは明らかに違う色を帯びた事を沖田は知った。
もう少しだ、と思う。
「珍しいペットだなんて聞いたら一度は飼ってみたくなるじゃねェか。首輪つけて、裸に引ん剥いて、××××させて、×××に×××突っ込んで」
の眉根がぴくりと動く。
「感謝しろィ。俺ァこれでも高給取りなんでィ。餌はいいモン用意してやらァ」
だから、安心して俺のガキを孕みやがれ――――
沖田が凶悪に笑んだ瞬間、は己の肉ごと首輪をこそぎ落としていた。
意味を成さなくなった鎖を話し、沖田は腰の刀に手をかける。
ぺろり、と舌なめずりをし、ぞくぞくと背中を駆け上がる感覚に心を躍らせた。
首の下から零れ落ちた鮮血がぼとぼとと零れ、の胸の辺りを濡らす。だが、はそれすら気にせず、血よりも紅い瞳で沖田を凝視するのだ。
ああ、堪らねェ――――
血に飢えた獣の瞳。血に濡れる白い身体は沖田よりも小さく、その凶暴性も残虐性もひどくアンバランスに見えた。だと言うのに、この女はこの場において自分こそが捕食者だと思っているのだ。たかだか脆弱な地球人が己に勝つ事など万に一つもないと信じ、そしてその事はおそらく九割がた正しい。
こんな不安定で、イレギュラーな存在が、俺を――――凌駕する?
「人間。ハラワタをブチ撒ける覚悟は出来てる?」
が禍々しいオーラを含みつつ、だが静かに尋ねた。
「ねえなァ。てめェこそ俺に突っ込まれる準備はいいかい?」
その一言は狂犬の手綱を砕く最後の一言。
は理性をす投げ捨て、狂気に満ちた死闘へと身を投じる。
ああ、まったく持って堪らねェ――――
性的興奮を遥かに凌ぐ抑圧された快感が体中を巡る。
自分こそ強者だと信じている者。強いもの、正しいもの、決してその地位が脅かせるはずがないと盲信している者。
そんなヤツを、最高に煽ってやって、地の底と言う底、底辺まで叩きつけてやったら。
どんなに気持ちイイだろう。
自分こそが敗者だと認めさせ、這い蹲らせる感覚は。
SだMだとそんなちんけなスケールじゃない。が己に敗北し、屈辱で顔をゆがめながら自分に組み敷かれる様は――――きっと可笑しくて楽しくて気持ちよくて堪らないに違いない。
「最初に覚えさせる言葉は“ご主人様”で決まりだな」
沖田はにやりと狂気に染まった笑みを浮かべると、へ向けて刀を大きく振りかぶったのだった。
end
「俺はアイツと違って、上手に飼ってやらァ」
初沖田でした。
色々間違ってると思いますが、どうかご容赦をorz