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028.暴露話





「風呂なら十二三まで共にしていた」
 ぽつりと抑揚なく官兵衛の告げた衝撃の一言に、半兵衛は盛大に口に含んでいた酒を吹き出した。視線だけで、卿は何をしているのだ、と非難を向け、何事もなかったかのように官兵衛は自分の手の中の盃を口に運んだ。
 戦で見事な勝利を収め、凱旋した晩に開かれた宴の席でのこと。が早々に潰れてしまったので、つまらなく感じていた半兵衛が官兵衛に話を振ったのだ。ねえ、何か愉しい話はないの? と。
 通常の会話でさえ、必要以上に口を開かない官兵衛にとって返答のしようのない質問だ。卿の期待しているような話など何も持ちあわせてはおらぬ、とそっけない返答に、それを予測していた半兵衛はを酒の肴にした。じゃあ、の小さい時の話で、何か面白い話を教えてよ、と。
 本人が起きていたのなら、耳先まで真っ赤になって阻止した話題だろう。だが、あいにくその当人は最初の二三杯で撃沈し、今は官兵衛の片膝に頭を載せて寝入っている。その姿勢に違和感を感じぬでもなかったが、この師弟はどこか人の理解の及ばぬところで依存しあっているので、まあこういうもんなのか、と半兵衛はさらりと流した。
 で、半兵衛が変な話を振ったところで冒頭に戻る。
「ちょ、ちょ、ちょちょちょ、ちょっと本気で言ってるの!?」
 半兵衛はぐしぐしと酒の滴った顎を袖で拭うと、官兵衛に迫った。十二三と言えば、十分大人への階段を登り始めた頃ではないか。
 女親ならともかく、男親と風呂を共にしたがる年頃ではない。勿論、官兵衛が肉親でないのは周知の事実だが、それでも育ての親のようなものである。だがいくら育ての親でも、十分問題のある行為だ。
「官兵衛殿のむっつり! 破廉恥! ずるい! 羨ましい!」
 後半は本音が混ざったが、半兵衛には驚愕の事実だ。何歳までおねしょをしていたとか、そういう話が聞きたかったのに、それ以上の大物が飛び出てしまった。だが官兵衛は半兵衛の動揺の意味が分からないのか、半兵衛の雑言を煙たそうに聞いている。
「下らぬ。私にとってこれはいつまで経っても鼻を垂らした小童だ。天井から水の落ちる音が怖いというから、仕方なく付き合ってやったまでで……だいたい未だに夜独りで手水に行けぬ奴に、卿の想像するようなものは何もない」
「なにそれ!? そうなの!? 夜中に厠に行くのに毎日官兵衛殿を起こしにいくの!?」
「べつに毎日というわけでは……」
「重要なのはそこじゃないでしょ! っていうか、もしかして一緒に寝てるとか言わないよね? ね、ね、さすがにそれは犯罪だよね?」
 血相を変えた半兵衛に迫られ、官兵衛は面倒くさそうな顔でそんなはずがあるか、と一蹴した。
「そ、そうだよね。いい年した男女がひとつの寝具に寝るとかね……」
 ほっと胸をなでおろす半兵衛だったが、それに続く官兵衛の言葉はそれ以上の破壊力を持っており、
「当たり前だ。最近は週に一度程度に過ぎぬ」
 半兵衛は何をどこから突っ込めばいいのか分からず、真剣に彼ら師弟を心配するのだった。




end


官兵衛もヒロインも恋愛感情はなく、ただなんとなく昔からの習慣でそうしているだけ。
無自覚に依存してるから、半兵衛にとっては厄介で仕方がない!