025.よってたかって
は独り、冷えた床の上に正座させられていた。長時間正座させられているせいか、先ほどから足がぴりぴりと痺れて仕方がない。
早く姿勢を崩してしまいたいのだが、そうできない理由は仁王立ちですごむ女性陣たち。甲斐姫、くのいち、稲姫の三人が詰め寄るように、ぐるりとを囲んでいたのだった。
「さあ、いい加減白状しなさい!」
厳しい口調の甲斐姫。対して隣りのくのいちは、
「ほらほら〜、さっさと吐いちまった方が楽になれますぜぃ」
と、にやにや笑みを浮かべながら茶々を入れる。
「え、ええと、だから皆さんが思っているような事は……」
は困り果て弁解したが、言い訳は聞きません! と稲姫から厳しい叱責が飛び、しゅんと口を噤む。これでは一向に埒が明かない。
「ほら! 言っちゃいなさいよ、誰があんたの本命なの!?」
ずいと真顔で甲斐姫に詰め寄られ、はほとほと困り果てた。
事の発端は、子飼いの将たちとが姉弟のような関係なのだと言う話だった。事実なのだから、その通りに肯定しただけだったが、くのいちがにやりと意味深な笑みを浮かべて、怪しいと言って来たのだ。
いい年頃の健全な男女が、ただの姉弟で済むはずがない! とめちゃくちゃな理論をかかげて話を膨らませ、三人の誰かはのことが好きなのではないかと邪推して来た。否定し、自分は軍師だから成長してからは接点は減ったと説明したところ、じゃあ両兵衛のどちらかと追い討ちをかけられたのだ。
そこへ稲姫が参戦し、はっきりさせないのは不埒です! とよく分からないお叱りを受け、正座させられる羽目に至ったのである。
「さあさぁ、ここはひと思いに言っちゃいましょうよぅ」
「ううう……」
くのいちに促され、は苦しげにうめき声を上げる。
誰か一人の名を言ってしまえばこの場は逃れられるかもしれないが、この女子三人の事ならばきっと今日一日ですまない。名を上げた相手にも詰め寄り、どこにほれただの、どこまでの関係だのと、根掘り葉掘り聞きかねない。
はしばらく悩んだ挙句、ある妙案を思いついた。
「それは……その、私には他に想う人がいるのです」
「ええっ!? ちょ、誰よ、それ!」
「それは……身分違いの恋ですので、口にする事は出来ません。話せばきっと相手の方にも迷惑をかけてしまう……。私はただ、想うだけでいいのです……」
の頬を、すうっと透明な涙が零れ落ちた。
嘘泣きである。
軍師たるもの涙の一つも自在に操れねば――――というのは御幣があるが、くのいち以外の二人はの大根芝居を見事、身分違いを嘆く乙女に脳内変換し、そうだったのね! ともらい泣きの涙を両目に浮かべた。
「わかるわ、恋に悩む乙女の気持ち! あたしは断然、を応援するわよ!」
と、甲斐姫の力強い応援を受けてひと難去った――――かに思われたが、くのいちがくるくるとクナイを指先で弄びながら、ぽつりと呟いた。
「それってぇ〜、もしかして幸村様だったりして〜」
瞬時に、今まで感涙の涙を零していた二人の姫が鬼の形相に変わる。
「……あんたまさか……」
「五人も周りに男性がいながら幸村まで……。不埒です!」
「ち、ちちちちち、違います! くの、なんで余計な事を……!」
「だって、ちん。本当のこと教えてくれないんだも〜ん。悲しいにゃ〜」
悲しいと言いつつ、きししと子供っぽい笑みを零すくのいち。
よってたかって、の苦戦はまだまだ終わりが見えない。
end
正直に答えても、答えなくても、きっと結果は同じ。