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019.落とし穴





「偶蹄類をハメようとしたら鳥類がハマりましたか。予想外の結果ですが、これはこれでこの罠の有用性が証明されました」
 そう頭上からのたまう地獄の官吏に向けて、はどんよりとした顔を向ける事しか出来なかった。
 丁度、下半身が地面にめり込むように沈み、上半身だけを土の中から飛び出させているような格好――――つまり有体に言えば落とし穴にハマったわけだが、どうしてこの男がこのタイミングで登場するのか、その理由を想像しはため息しか出てこなかった。
 大方、彼の永遠のライバル――――と言ったら、双方怒るだろうが――――である白澤を罠にハメて笑ってやろうという魂胆なのだろう。
 そのため、彼の住居兼職場であるうさぎ薬局付近に穴を掘るというのは、判断として正しい。しかも訪れたお客さんが誤って落ちないよう、あえて表ではなく、裏に掘ったというのも鬼灯らしい配慮だ。
 が、
「もう少し他人に迷惑がかからない方法にしてもらえませんか?」
 裏に掘ったからと言って、必ずしも白澤がハマるとは言えない。もしかしたら洗濯物を干しに着た桃太郎が落ちてしまうかもしれないし、桃太郎に会いに来た動物たちがハマってしまうかもしれない。というより、現に今、がハマっているのだ。
「まさかこんな子供だましに、あのアホ以外の人がハマるとは思わなかったので」
 しれっと応える鬼灯に、はひくりと顔をひきつらせた。
 わかった。万に一つがそのアホに劣るほど、注意力がなかったとしよう。
 だが、
「じゃあ、どうして危険だって教えてくれなかったんですか!」
 がうさぎ薬局から現れて穴にハマるまで約三十秒。その間、呼び止めて注意を促す事も出来たはずだ。
 なのに、この冷血漢は注意するどころか、見事にが穴にハマってからわざわざ姿を現したのだ。
 ゼッタイにこの人、楽しんでる――――
 顔を引きつらせたに、まあいいじゃないですか、とよく分からない慰めの言葉を吐く鬼灯。あなたのせいですけどね、と胸中で返しながら、は鬼灯に差し伸べられた手を掴む。
 いつも通りの読めない顔で、
「私と手をつなげたんだからプラマイプラスですよ」
 と、鬼灯がにこりともしない顔で呟いた。




end


どういう理屈だ!