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015.職務質問





 ガコンと機械的な音をたてて自動販売機が小さな箱を吐き出す。さっそく取り出し封を切ってトントンと指先で叩き、一本口にくわえて、ようやく土方は紫煙と共に安堵の吐息を吐き出した。
 まったく、どこへ行っても禁煙、嫌煙で、こうしてタバコの自販を探すだけで一苦労である。
 携帯灰皿に先を押し付けながら、こっちはだいぶ譲歩しているというのに、犯罪者のように扱われるのが気に食わないと思った。副流煙がなんちゃら、癌の発生率がなんたらと、とかく健康に悪いと強調するが、こっちはシモの世話まで見てもらうほど長く生きたくねーよ、と胸中で毒づく。
 と、ガコン、と。
 土方が思いふけるすぐ隣りで、同じような機械音がした。
 見れば、歳十七、八の娘が自販機の出口に手を突っ込んでいる。
 普通に見れば、タバコを購入しているようだが、
「あー……キミ、何歳?」
 とりあえず、警察として見過ごすわけにはいかない。
「え?」
 娘は驚いた顔で、こちらを振り返った。
 なかなかに整った顔だ。長い睫毛をぱしぱしとはためかせ、大きな目で土方を見つめている。土方の服装を見て真選組だと理解し、あきらかに戸惑ったような顔だ。
「あの……」
 心細さそうな表情を眺めながら、昨今の警察の不祥事というのは、意外とこういう女にひっかかちまうんだろうなァ、とぼんやりと思った。警察手帳をちらつかせ、人気のないところに連れ込み、卑猥な事を強要したとか――――一瞬、自分がこの娘をかどわかす姿を想像し、いやいやなに考えてんだ、と考えを消し去る。
「一応、タバコは二十歳からってなってんだけど」
 自販機の横に貼り付けられた、未成年の喫煙を禁じるポスターを指差す。女はきょときょとと視線を泳がせながら、頼まれたものです、と応えた。
 警察に声をかけられ戸惑っていると考える事も出来るが、なんだか怪しい。と、言うか、今更な話だが格好からして、どこか浮世離れしている。
 特徴的な銀髪と紅い目。濃紺のチャイナドレスは、どこかのチャイナ娘を連想させる。そして、腰にぶら下げた――――刀。
「あァ?」
 土方の視線が自分の刀に注がれている事に気づき、娘がすぐさま模造刀です、と応えた。だが、明らかに動揺している反応だ。
「あ、あの、私、金魂のコスプレが好きで! それで金さんの真似をして」
「いいから、ちょっと見せて」
 娘の拙い弁解を無視して、土方は刀に指先を伸ばした。
 と、
「やっ」
 身体を震わせて、娘が身をすくませる。
 土方はぴたり、と指を止めた。
 ちらりと見やると、今にも泣きそうな紅い目とかち合った。
 あぁ……
 これで何もないと思うほうが不自然だ。
 が。
 ずくりと身体の奥で何かがざわめいた。美味そうな娘の白い二の腕を眺め、あーあ、と胸中の奥底で呟く。
 ふぅっと紫煙と共にため息をついて、
「とりあえず、こっちで話しでも聞こうか」
 警察の不祥事というのは、不幸にもこういう女に出会ってしまって起こるのかもしれない。




end


「墜落少女」あたりのヒロインと土方さん。
ヒロインの刀には血の跡とか残ってるだろうから、
警察なんかに調べられたら一発でアウトですね。
そんなもの持ち歩くなというところですが、土方さんそれは犯罪です(笑)