Text

 愛してるとか好きだとか、必要以上に口にしない。
 ただベッドの上に押し倒して、服をひん剥いて、気持ちいいトコまさぐって。
 運命だとか永遠だとか、歯の浮くような口説き文句は決して言わない。言ったらきっと笑ってしまう。
 思ってなんかないくせに。誰よりもそんなこと信じてないんだから。




012.待ち伏せ





「なに?」
 が笑っていることに気づいたのか、神威が寝そべらせていた身体を起こした。
「べつにー?」
 何でもないふりをしたがその答えがお気に召さなかったのか、なに、と繰り返しての上に馬乗りになった。それでも言わないに苛立って神威はの首元に歯をあてる。甘咬みには程遠いそれに、ぴりりと痛みが走った。
 ああ、血が出たのかもしれない。言わないならこのまま食いちぎるとでも言いそうな目が、真下からを見ていた。
「何でもないよ。神威って甘い言葉、言わないなって思って」
「なに? 言って欲しいの?」
 神威も意外に感じたのか、少しだけ目を丸める。違うよ、とは笑った。
「ただそう思っただけ。運命も永遠も、だって信じてないでしょう? 来世も会おうとか絶対いわなそうだなって思って」
「そうだね。そんなものあるはずないし」
 あまりにはっきりした答えが帰ってきては思わず吹き出した。
 嘘でも言葉に縋りたくなるよるような恋がきっと世の中にはあるのに、それを真正面から否定するような言葉だ。例えば吉原の遊女とか、今生で添い遂げられない二人が誓う口説の文句のようではないか。
 もし自分が遊女で神威が客だとしても、絶対に心中はありえないなと思った。まあその前に店ごと潰されて攫われるか、自分の足で生きていけない女に興味はないと捨てられるかそのどちらか。
「私も来世とか信じてないしね。死んじゃったらそれでお終いだと思うし、もし生まれ変わってもそれって私じゃないでしょ?」
 違う名前に違う顔。新しい記憶に、異なる世界。
 だったらそれはもう全くの別物だ。今、前世というのもを全く意識しないように、喩え来世というものがあっても今の自分とはまったく関係のないものだ。
 の存在はこの現世で終わる。それが正しい自然の摂理だと思う。
 だが神威はの予想に反して、意外にも信じる派だった。
「意外だね。運命も永遠も信じてないのに?」
「なんで? 俺は来世でもに会いたいけど?」
 予想の斜め上の言葉には何か裏でもあるのでもはないかと、思わず勘ぐってしまった。そんな乙女チックな思考を持ちあわせていたのかと驚いていると、
「だって来世がなかったら俺の所有権は現世で終わり?」
 それに続く言葉はやはり神威らしい独占欲に満ちている。
「ああ、そういう……っていうか、私来世では神威に負けてないんじゃない?」
 こうして彼の愛人として大人しくしているのは、が実力で神威に負けたからだ。しかしそれは現世の負け星。来世にまで続くだなんて聞いていない。
「まあ、いいじゃん。は信じてないんだから。もしも来世があったらって喩え話なだけだよ」
「そうだけど……」
 釈然としない。万が一、本当に万が一、来世なんてものがあったら、自分は突然現れた男に愛人になれと脅されるのだろうか。それとも勝負も一度仕切りなおして、殺し合いをし直すのか。と言うか、そもそも二人共男だったらどうする。むしろ人型じゃなかったらどうする。動物とか、虫とか、アメーバとか……
 そこまでぐるぐると思考を巡らせていると、神威がけたけたと笑った。
って変に真面目だよねぇ」
 どうやらからかわれていたらしい。
 悔しそうにむくれていると、神威は上機嫌での髪に口付けた。ベッドの上に散らばった髪の先へ、頭上へ、額の生え際へ、キスを繰り返す。
 言葉にしない甘さが滲み出て、むず痒いような照れくささがを襲う。
 真面目に信じているわけではないが、神威のこの執着心に絡め取られて、もしかしたら来世でも会ってしまうかもしれない。そんな事をぼんやりと思った。




end


来世で待ち伏せってホラーなような(笑)
ただのバカップルです。
いつもどおりです。