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 両目を瞑り、肩を震わせて、柔らかな唇が降りてくるのを心臓が爆発しそうなほど緊張して待っていたのに ――――
 ちゅ、と額にキスをされて、がっかりしない女の子がいるだろうか。




011.子供扱い





「アーサー様のそういうところ嫌いです」
 ぷいとそっぽを向いてしまったの前で、アーサーは怒り泣きのような顔をした。べつに俺だってお前のことなんて好きでも何でもないし嫌われたってどうって事ないんだからなバカァ! とお決まりのツンデレ台詞を喚いている間も、はそれを歯牙にもかけずそっぽを向いている。
「おい、人の話きいてるのか!」
 と、無理やりこちらを振り向かせれば、眼下からまっすぐに向けられる刺のような視線。まるでこちらが悪いかのような無言の訴えに、さすがのアーサーも不安げに言葉をどもらせる。
「な、なんだよ」
 まるで意図が伝わっていないアーサーに、はもう、と唇を尖らせた。
 そして、鼻先がぶつかりそうなほど、ずいと顔を寄せると、
「どうしていつも子供扱いされるのですか!」
「……は?」
「やっぱりご自覚がないのですね!」
「いや……ちょっと待て、何のことだ?」
 呆けた顔のアーサーに、はキッと鋭い視線をぶつける。
「常々ずっと不満だったのです! お酒も煙草も厳禁だし、ヒールの高い靴は吐くなと仰るし、コーヒーは苦いからお前には早いとか言うし!」
 私の事を何だと思っていらっしゃるのです! と、はぽこぽこと沸騰しそうな程に顔を真赤にして怒り散らす。ようやく子供扱いされた事に怒っているのだと思い辺り、アーサーはああ…、と唸るように呟いた。
 確かに国の一部であるを今更、子供扱いするのはおかしいのかもしれない。菊ほどではないにしろ、千年近く生きているのだし、もしかしたらアーサーより年上なのかもしれないと密かに訝しんでいる。
 が、そういった事実があったとしても、この東洋人独特の童顔や小柄な体型を前にすると、つい口うるさく言ってしまうのだ。まるでアルフレッドがまだ彼の庇護下にいた時のように。
 それに ―――― もしレディとして扱ってしまったら、ハグ一つで顔を真赤にするこの東洋人は果たして耐えられるのか?
 そんな疑問と遠慮がぐるぐると頭の中を回る。
 だが、とても説得だけでの機嫌は直るようにも思えず、アーサーは密かにため息を漏らす。
「後で後悔するなよ」
 と呟いて。
 リップ音をさせて啄むようなキスを一つ。
 たったそれだけにも関わらず顔を真赤にして俯いてしまったを前に、アーサーは苦笑を漏らす。
「ほら、言ったじゃねぇか」
 そう言いながら、きっと後悔は自分の方が遥かに強い。こんな風にキスをしながら、まだまだ甘美な夜を迎えるのには我慢が必要で、英国紳士はなんと辛いのだろうと自嘲的にため息を漏らした。

end


同盟中、たぶんイギリスに色々学びに留学している間の話。
いい感じになったのに子供扱いをやめない眉毛に不満なヒロインと、
でもやっぱり恋愛には奥手だから中々手が出せない意外と紳士な眉毛。