009.忘れ物
名を呼ばれて振り返ると、まるで子供のように小袖の裾を上げて小走りに走ってくるの姿があった。
「……?」
驚いて思わず馬の手綱を引いた。馬首を並べた左近が怪訝そうな顔で振り返ったが、三成は気に留めず小走りに駆けて来るに見入った。
息を切らして駆けてきたは、
「はい、これ」
小さなお守りを馬上の三成に差し出す。
三成はの笑顔と差し出されたお守りを交互に凝視した。薄汚れたお守りは微かに出雲大社の字が読めるくらい古びており、すでに効能が切れてしまったのではないかと疑いたくなる粗末なものだった。
「……なんだそれは」
「常勝のお守りだよ。きっと三成を守ってくれるから」
どうせなら新品を寄越せ、と言ってやりたいのを懸命に堪え、三成はが己の手の平にそれを乗せるのを見ていた。
そして、は自分の両手をそっとその上に重ね、
「忘れないで。私はいつでもあなたの側にいる。ずっと……見守っているからね」
そうして微笑んで――――瞬きのうちに、の姿は消えていた。
「殿?」
「なんでもない……」
「なんでもないって……泣いて、」
心配そうに追いかけてくる左近の声を無視し、三成は目元に浮かんだ涙をぞんざいに拭い去った。
何をいまさらと思う――――
「馬鹿が」
どうせ祈るなら、側で、ずっと見守っていろ――――
「こんな物で俺が喜ぶとでも思ったのか……?」
決して届かない相手へ、ぶつけようのない文句を口にし、三成はぎゅっと胸の前で強くそれを握り締めた。
end
いわゆる天国から見守ってますよ、的なお話。