Text

 

005.寝起き





 目が覚めると隣のぬくもりが居なくなっていることに違和感を覚えた。寝ぼけ眼で居間へ向かうと、台所の方からトントンと包丁の動く小気味良い音が聞こえてくる。朝方のひやりとした空気に、鍋から立ち上る湯気が溶ける。
 割烹着姿も様になるなぁと口笛を吹くと、白澤が居ることに気づかなかったのかびくりとが肩を震わせた。
「わっ、びっくりしたぁ……おはようございます」
「うん、おはよう」
 まだ六時を回ったばかりだと言うのに、は身支度もしっかり整え朝食の準備を始めていた。焼き魚に菜っ葉の味噌汁、煮物、浅漬、白米。純和風の料理ばかりなのは、桃太郎が買ってきた食材を使ったためだろうか。和食に慣れた白澤にはむしろ嬉しいメニュー、何よりもの手作りを食べられるだけで喜びが溢れる。
「えへへ」
 思わずにやけてしまう。背後からを抱きしめて額に口づけを落とすと、はくすぐったそうに目を細めた。
「白澤様。いまお料理の途中で……」
「ん? 邪魔しないよ?」
 抱きついている自分は無視してとでも言いたいのか、回した両腕を緩める気配はない。は甘える恋人を叱るのでもなく、しょうがない人、と溜息を漏らし、止めていた包丁を動かした。
 トントントン、とリズミカルな音が響いて、白澤は幸せを噛みしめる。
 お嫁においでよなんて言っても、仕事を辞められないはいい顔をしないが、こんな毎日が続いたら本当に最高だと思う。
「ねえ、明日は南瓜の入った味噌汁がいいな」



end


そして毎日、明日のリクエストをするんだと思う。