002.いつもの
「うーん。コレ、脱がしづらいなー」
一体何枚着込んでいるのかと思えるほど、剥いても剥いても一向に肌色が見えて来ない。着物の奥から襦袢をぐいぐい引っ張り出しながら、神威はうーんとうなり声を上げる。そのちょうど真下で、は明らかに不愉快と言った風に顔をしかめていた。
「ねえ……」
「んー?」
「んー、じゃなくて。ねえ、おかしいよね、これ?」
「なにが?」
「なにがって! だって……なんで私、初詣前に地面に転がされて脱がされかかってんの!?」
叫びと共に、は足袋を履いた足でげしっと神威の腹部を蹴り飛ばした。
が、一向に効いた様子はない。
へらり、と神威は気の抜けたような笑みを浮かべ、
「や、だってがせっかくおめかししてくれたんだし」
「うん、そうだよ! おめかししたんだよ! だったら脱がしちゃいけないと思わない!?」
そもそも初詣だって済んでないのに――――!
わざわざ晴れ着で初詣に向かおうと思ったのは、なんとなく気まぐれ。神威が喜んでくれたらいいなあと思わなくもなかった。
だから、この状況はすごく喜んでくれたらしいので、ある意味成功ではあるのだが、こんな展開は予想していない。初詣に行こう、とこたつで丸まっている神威を呼びに来た瞬間、手を引っ張られ突っ伏して、そのまま馬乗りになられてしまったのだ。
「ほら、据え膳食わぬは男の恥って言うじゃない」
「据えてないっ!」
ぎゃーぎゃーと新年早々くだらない攻防を繰り返していると――――それでもやはりが押されているのだが――――おーい、と間延びした声と共に襖がすっと開いた。
「そろそろ準備できてン、」
言いかけて、襖の向こうの阿伏兎が言葉を止める。
せっかく着付けてやった着物をぐしゃぐしゃにされたと、満面の笑みでそれに覆いかぶさる神威。
あまりにもいつも通りの光景に、阿伏兎はぼりぼりと頭をかいてから一言。
「あー……姫はじめ終わったら、後で声かけてくれ」
そして、ぱたんと襖が閉じる。
去っていく阿伏兎の耳にの助けを求める声がしばし届いたが、やがてそれも静かになった。
end
いつも通りブレない夜兎組。
アブさんは器用だから、きっと着付けとかも出来る!