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001.約束





 昔々のお話。
 まだフェリシアーノがローデリヒの家で過ごしていた頃のお話。
 ある嵐の夜にフェリシアーノは不思議な夢を見た。

 とんとんとん ――――
「先づ初春の暦開けば、心地よいぞや、みな姫初め……」
 どこからか響く、少女の歌声。細く、だがよく通るその声に導かれ、鬱蒼と茂る竹林の合間をフェリシアーノは歩く。
「一つ正月、年を重ねて、弱いお客は、つい門口で」
 色とりどりの幟が風にはためいて揺れる。空は高く快晴。雲ひとつない蒼穹を鳶が尾を揺らして飛び去る。
 きっと自分は夢を見ている ――――
 自覚しつつ、フェリシアーノは誘われるように歩を進める。前にもこんな風に、見た事もない不思議な異国の光景を夢に見たことがある。
 またあの子に会えるかな。
 期待を込めて声の元へと向かうと、ひだまりを落とすようにぽっかりと竹林が開いたそこに茅葺屋根の家屋があった。玄関も呼び鈴もない事に戸惑いながら、声に導かれて庭の方へと回りこむと、縁側で鞠をつく少女の姿があった。
 前に出会ったあの子より、背が低く幼い。そして何よりも、長く流れるような髪が襖を開いた部屋の四方に伸びている。その先は見えず、ともすればどこまでも続いているかのように思えた。
「薺、七草、囃し立つれば、心いきいき、ついお恵比須と……」
 長すぎる髪は部屋の中に置いたまま、身体だけ縁側に出し踏石に鞠をついていた。まるで長い髪が木の根のようだとフェリシアーノが感じたその時、少女のついていた鞠が方向を誤って庭の方へと転げた。あっと声を放ち少女が顔を上げた瞬間、二人の視線が合う。
「あの……」
 鞠を拾い上げ声をかけると、明らかに少女が怯えたような顔をした。
 長い袖で顔を隠し、部屋に逃げ込もうとするが独りでは縁側に伸びた髪を中に戻すことが出来ず、オロオロとしている。その間にフェリシアーノは踏石の前まで行くと、
「はい」
 少女に向けて鞠を差し出した。
 少女は戸惑いながらも、差し出された鞠とフェリシアーノの顔を交互に見ておずおずと指を伸ばした。
「あり……がとう……ございます。貴方は……?」
 消え入りそうな細い声に、フェリシアーノは笑顔を向けると縁側にちょこんと腰掛ける。
「えへへ、僕はフェリシアーノだよ。君は?」
「私は……です」
「いい名前だね。君もどこかの国なの?」
 フェリシアーノの問いには戸惑いを見せ、首を横に振った。それをフェリシアーノは生まれたばかりの国と勝手に解釈し、そうなんだーと暢気な返事をする。
 と、視界の中のの髪が気になり、フェリシアーノはわぁと感嘆の声を上げて指を滑らせた。
「まっすぐできれい。すべすべー」
 断りなく髪を触られ、はびくりと肩を震わせたがフェリシアーノはそれに気づかない。港町の化身であるにとって髪は各地に伸びる河で、実は人間と異なり神経を持っている。それを遠慮無く撫で回され、頬ずりされるのだからたまったものではない。
 実際フェリシアーノが触れた辺りの川の名を小さな声で叫んでいたのだが、どうやら無邪気な客人はその反応に気づかないようだった。
 散々撫で回されぜーはーと肩で息をするが、顔を真赤にさせて責任とって下さい! と叫び声を上げたのはそのすぐ後の事だった。


 そして、それから数百年後 ――――
「えへへ、責任取りに来たよ!」
 確信犯と呼ぶには邪気のない笑顔で、一国を名乗るようになったフェリシアーノは日本を訪れたのだった。

end


イミフですみません。ちびたりあの夢パロ。
港町擬人化なので、髪は日本中の河なんじゃないかとか思って書いたら、
家から出られないくらい長いという軽いホラーになりました。
もはや国とかじゃなくて妖怪ダヨ。