天帝少女の地獄逝き 皇帝公主
「大っきな乳は包まれたい。小っさな乳は包んであげたい。どっちも好きだけど、美乳はもっと好きです。だからお願い、揉ませてくださ――――」
「くたばれ、ゲスヤロウ」
わきわきと両手を動かして、に迫っていた軽薄薬剤師の脛を鬼灯は容赦なく蹴り飛ばした。
苦悶の声を上げつつごろごろとそこらを転がる白澤を尻目に、怯えきったを部屋の外へ逃がすと、ナニすんだお前! と噛み付くような勢いで白澤が怒鳴った。
逆ギレも甚だしい彼に向かって、鬼灯は侮蔑に侮蔑を重ねた顔で睨み据える。
「ご婦人に向かってよくもそんな下劣な言葉を口にできますね、このボルボックス野朗」
「ボル……? まあ、いいや。ちゃんにビンタされるならともかく、お前に蹴り飛ばされる筋合いはないよ。むしろちゃんになら、真っ赤になった顔で叩いて欲しいけど」
むふふ、とにやける白澤を、おらよ喜べ、とばかりに鬼灯は容赦なく殴り飛ばした。だからお前じゃないっ! と白澤は鼻血を飛ばしながら叫んだが、相手をする鬼灯ではなかった。
「筋合いというならいくらでもあります。ここは私の職場で、私は彼女の先輩。そして、地獄の官吏です。目の前のセクハラを見逃せるはずがありません」
「ほー。自分のセクハラは見逃せるのにか?」
お互い睨み合って、頬を抓り合ってしばらく。
白澤は舌打をしてから、僕には揉む権利がある、と言い出した。
その時の鬼灯の表情は――――見下しに見下し、地を這う亡者を見下ろすよりも軽蔑に満ちていた。
だが、天界の極楽蜻蛉・白澤はそんな絶対零度の視線を軽やかにスルーし、にやにやと笑みを浮かべる。
「なんせ、僕はちゃんと将来を誓い合った仲だからね」
だからあの乳は僕のもの――――と、突飛な論理で所有権を主張する白澤。鬼灯の侮蔑の視線に嘲笑が混じった。
「これだから耄碌ジジイは」
はっと笑い飛ばした鬼灯に、白澤は怒り狂うかと思われたが、意外にも鬼灯の挑発を余裕の笑みで流した。
耄碌ジジイの妄想だろうと思っていた鬼灯は、白澤のそんな反応に思い切り顔をしかめてみせる。
「……証拠でもあるんですか?」
「あるね。ちゃんの生乳写真を賭けたっていい」
そこまで自信があるのか、と言うかどうやってそんな非合法のブツを手に入れた、と突っ込みどころは多いが、鬼灯は一拍の間思案し、あえてその誘いに乗る事にした。
「いいでしょう。嘘だったら、貴方のコレクションを全部寄越すのですよ」
ちゃっかり賭けの賞品をランクアップさせ、鬼灯は白澤の言葉を確かめるため浄瑠璃鏡のスイッチを入れたのだった。
白澤が映し出したのは、今より千年以上も昔、中国のとある王朝が栄えていた時代だった。
鏡に映るのは豪奢な装飾が施された御殿。華やかな衣装を纏った女性たちが何人も映し出される。白澤は懐かしいなぁ、と呟きながら、その場所が皇帝の後宮である事を説明した。
「待ちなさい、白豚さん。貴方もしかして男子禁制の後宮に潜り込んだんですか」
「当たり前じゃん。僕は神獣だよ? 皇帝が後宮にこもりっぱじゃ仕方ないよねえ」
皇帝のラッキーアイテムがこんな事でいいのか、とデレデレに緩みきった白澤の顔を眺めながら鬼灯は顔をしかめた。まさかこの時代のは皇帝に仕える貴妃で、それを白澤が横恋慕したのではないか、と悪い予感しかしない。
「いいからさんを映しなさい」
緩みきった顔を問答無用で殴りつけ――――当然、白澤は何しやがると噛み付いて来たが、それを軽やかに無視し――――鬼灯は浄瑠璃鏡の早送りを押した。
しばらくは白澤が後宮の美女たちにデレデレするという、大変不快な映像だったが、やがて白澤は特別豪華に創られた扉の前に至った。見張りの宦官や、後宮の美女たちが白澤を押しとどめたが、白澤が手をかざすと彼らは強烈な睡魔に襲われ深い眠りへと落ちていった。
障害を取り去り、白澤はその強固な扉をゆっくりと押し開く。
幾重にも施された鍵が、まるで役目を終えたとでも言うように音を立てて砕け散った。
そして、白澤は尊大とも言える足取りで、主の許しを得ぬまま部屋へ入ると、
「晩上好、皇帝陛下」
まるで長年の友人に声をかけるように、馴れ馴れしい言葉を口にしたのだった。
白澤に現世の理は通用しない。相手の位がどんなに高かろうが、皇帝だろうが、彼が跪く事などあり得ないし、畏れる事もない。
気に入れば栄光を与え、気に入らなければ黙って滅びを静観する。根っからの気分屋で自由人だ。
その白澤が姿を現した。
皇帝にとってこれ以上ないほどのラッキーアイテム。果たして子々孫々に続くまでの繁栄を約束された皇帝が取った行動は――――
「おのれ刺客め! 我が刃を受けて見よ!!」
きらきらと輝く宝刀を、賊と勘違いした白澤へ向かって思い切りブン投げたのだった。
end
本当にヒロインの乳は白澤のものなのか!?
次回に続きます。