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天帝少女の地獄逝き06





 とある昼下がり。閻魔殿の補佐官の執務室にて――――
「はーい、你好吗?」
 手をひらひらと振りながら突如笑顔で現れた男に、はひっと小さな悲鳴を上げ身体をのけぞらせた。
 白い白衣に三角巾。まるで小学校の給食当番のような井出たちのこの男――――へらへらと締りのない笑みを浮かべているが、これでも吉兆の印にして中国妖怪の長とも呼ばれる白澤である。
 本当の姿は獣の身体に、二本の角、六つの目を持つ神獣だが、女の子と遊べないからという理由でこの男は人型でいる事が多いのだった。
「この前はごめんね。男性恐怖症だって知ってたら、あんな事しなかったよ」
「知らなくてもしないでくださいっ!」
 あんな事――――つまり迫られて押し倒されたわけだが、白澤にとってそれは女性に対してごく当たり前の反応である。
 広大なストライクゾーンを持つ彼にとって、が姑獲鳥である事などさしたる問題ではない。人型を取れるなら問題はないし、仮に取れなくても顔と胸が人型なら没問題というわけだ。
 あの後、鬼灯により予備知識――――当然、犬猿の仲である彼の教えなのでかなり印象が悪い――――を得たは、すっかり白澤への不信感を募らせていた。
「今日は何の御用でしょうか」
 と、一定の距離を保ちつつ、用向きを伺う。
 邪険にされた事に白澤はひどいなぁと呟きながらも、その顔はにこやかなまま、懐から包みを取りの机の上に置いた。
「はい、これ」
「え?」
「注文受けてた薬。この前、忘れてったでしょ?」
「あ、ああ……」
 忘れていったと言うか、渡される前に押し倒されたのだが、あえてそこは指摘せずは小声で礼を述べた。
 が、包みに手を伸ばした瞬間、の手を包むように白澤がその上から手を重ねてきた。
 ひぃっと顔を蒼白にして手を引っ込めかけたが、白澤の手に捕まれ逃げる事が出来ない。
「な、な、なんでしょう?」
 怯えつつ尋ねると、白澤はにっこりと笑った。悪い笑みである。
「タダじゃあげない」
「え、えっと御代なら閻魔庁の予算から」
「定価? 僕がわざわざ地獄まで届けに来たのに?」
「えっ、ええっ、でも……」
 べつに頼んだわけでもなければ、日を改めて取りに行くと伝えたはずだった。それを勝手に持って来てこの言い草は、優しさの押し付けどころか押し売りである。
 が、相手はかの有名な白澤。神格がはるかに高い神獣を前に、はきっぱりとその手を拒絶する事が出来なかった。
「あ、あの、どうすれば……?」
 怯えながら尋ねてきたに、白澤は満面の笑みを向けると、
「僕とデートしよう」





 セクハラとパワハラの合わせ技以外の何ものでもないと思う。
 いい天気だね、などと言いながらさりげなく伸びてきた手を跳ね除け、は白澤の半歩後ろを歩いていた。
 確かにいい天気である。むしろ、いい天気以外あり得ないのではないかと思う。この桃源郷では。
 驚いているうちには天国に連行され、こうしてデートという名目で白澤と桃源郷を散歩しているのだ。
 確かに美しい場所だと思うし、こうしてのんびりするのも悪くない。
 ――――が。
「ねえ、手ぐらい繋ごうよ。デートなんだからさあ」
 やはり、この状況はおかしくないだろうか。
「あの……白澤様。私が男嫌いってご存知ですよね?」
「知ってるよー? でも、早く僕に慣れて欲しいし」
 知っていてそれを強要するのか。というか、慣れるとは一体なんなのだ。
 色々と訴えたい事はあったが、どうやら何を言っても通じないのだろう。なにせ相手は鳥類相手にまで発情した男である。
 はううんと唸りながら、白澤の白衣の袖をそっとつまんだ。
 白澤がきょとんと目を丸める。
 は恥ずかしそうに頬を染めながら、
「……これが最大限の譲歩です」
 そう言って恥ずかしげに顔を背ける様に白澤はさらに目を丸め、次の瞬間、思わず噴き出してしまっていた。
「なっ、人がせっかく努力してるのに!」
 笑われた事に腹を立てはつかんだ白衣を離してしまったが、それとちょうど入れ違いになるような形で白澤がに抱きついた。
「あはははは、ちゃんは可愛いなー」
 かわいい、かわいい、とまるで子供にするような様な仕草でぐしゃぐしゃと髪を撫でられる。
 男嫌いのの許容量をはるかに凌ぐスキンシップに、はぐるぐると目を回し、
「い……い、い、いやあああああああ!」
 盛大な悲鳴を上げたのだった。








end


退きません、動じません、省みません。
好きになるまで押してみる。
それが白澤クオリティ。