Text

姑獲鳥────
鬼神ノ類ナリ。能ク人ノ魂魄ヲ収ム。荊州多クコレアリ、毛ヲ衣テ飛鳥トナリ、毛抜ケテ女人トナル。コレ、産婦ノ死後化セルモノ。故ニ胸ノ前ニ両乳アリ。
喜ンデ人ノ子ヲ捕リ養ッテ己ノ子トナス。凡ソ小児アル家、夜衣物ヲ露ハスベカラズ。コノ鳥夜飛ビ来テ血ヲ以テコレニ点シテ誌トナス。児スナハチ驚癇及ビ疳疾ヲ病ム。
コレヲ無辜疳トイフナリ。
ケダシコノ鳥、純ラ雌ニシテ雄ナシ。七八月ノ夜飛ンデ人ヲ惑ス。
「本草綱目」

うぶめの事─────
産の上にて身まかりたりし女、其の執心、此のものとなれり。
其のかたち、腰より下は血にそみて、其の声、をばれう、をばれうと鳴くと申しならはせり。
「百物語評判」




姑獲鳥





「なんで姑獲鳥と書いてうぶめと読ませるのでしょうね」
 そんな事をぽつりと呟いた。
「鳥山石燕さんの絵には鳥なんてぜんぜん描かれてないのに」
 日本のうぶめの事だ。
 うぶめの伝説は日本の至る所に残されており、そのうちの一つにうぶめどりというものがある。これが姑獲鳥の性質と酷似しているため、これと混同されたのだろう。
 だが、姑獲鳥と似ていたのはあくまでうぶめどりであり、うぶめではない。姑獲鳥をうぶめと読ませるのは誤解の元だろう。
「子供と関連あるとか、お産で死んだ女が化けたとか、類似点はあるのかもしれません。でも、まったく別のものです」
 そう呟いては目を細めた。
 視線の先には昏睡状態に陥った人間の娘がいる。現世の病院という場所、瀕死の娘の枕元にと鬼灯は立っていた。
 人間たちに二人の姿は見えない。当然だ。地獄からやって来た鬼神なのだから、生きた人間が二人の姿を捉えられるはずがない。
 だが、一人だけ――――その死の淵に立った少女だけが、薄く開いた瞳で二人を見つめていた。
 視えている。
 死を見つめている。
「うぶめは赤子を抱いて現れるんです。出会った人にこの子を抱いてと頼むんです。姑獲鳥はそんな事しません。私たちは攫うんです」
 夜な夜な空を飛び、人間の女児を攫って養う。渡すのと攫うのではまったくの真逆。
 そもそも子供がいたら、それは姑獲鳥にはならない。子供を攫う必要がないのだ。
 子供がいない事が前提となる姑獲鳥と、いる事が前提となるうぶめとでは混同の仕様がないのに、現世では時々この二つを同じ妖怪のように扱う。
「皮肉ですね、私たちは決してうぶめにはならないのに」
 呟いて、はふわりと羽毛を羽織った。
 人間の姿から姑獲鳥の姿へと変じると、青白い燐の炎がの周囲を漂った。
 悲しげな瞳を、ベッドに横たわる少女に向ける。一生懸命、生きようとする様に、は顔をそむけたが、
「あなたの役目です」
 鬼灯の言葉に、ゆっくりと翼を広げた。
 少女の頭上に片翼をかざすと、ゆるゆると――――少女のまぶたが降りていく。ベッドを取り囲む親族たちが、涙を流しながら娘の名を呼ぶ。
 だが――――
「ご臨終です」
 心電図の停止する音とともに、人間の医師が臨終を告げた。
 泣き崩れる人々の姿を見つめながら、は取り出した少女の魂を宙に浮かべた。それは燐の炎となって、の身体にまとわりつくように浮遊する。
「さあ、行きましょう」
 鬼灯の声に促され、は翼を広げた。
 燐の炎を連れて、姑獲鳥は常闇の国へとはばたく。




end


色々誤解の多い姑獲鳥とうぶめについて。
姑獲鳥の鳥の姿は魂の象徴でもあるらしいんで、
もしかして死神的な魂の運び屋なのかも……と妄想の末、書き上げました。