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うさぎ遊戯





 床に散乱した家具に、壁には拳をめり込ませたような痕とひび割れ。
 とうていロマンチックな空間とは言いがたい部屋だったが、確かに二人の間には桃色に染まった甘やかな空気が流れていた。
 ベッドの上に足を投げ出すように座った神威の膝の上に、顔を向かい合わせるような体勢でが座っている。
 恥ずかしそうに顔を赤らめて顔を背けるに反し、神威はいつになく上機嫌な顔をしていた。
 の両手首は神威の手に掴まれて拘束されている。照れ隠しに暴れそうなを、そうやって制したのだ。
 現に暴れて部屋はとてつもなく荒れているわけだが――――今は大人しく、神威の膝の上で顔を俯かせていた。
「ねえ、俺が勝ったよ」
 囁くように告げると、膝の上のがびくりと肩を震わせた。
 おそるおそる視線を上げると――――神威の嬉しそうな笑顔。どうやらこのまま有耶無耶にしてくれる気は、一切ないらしい。
 はおずおずと神威の両肩に手を載せると、ゆっくりと顔を寄せた。
 互いの鼻先があたりそうな距離で、啄ばむような口付けを施す。
 神威の与えるそれとは対照的な、控えめなキス。本当はもっと唇を割って舌を吸いだすほどに求めて欲しいが、それでもからされるキスに神威の胸はふわふわと夢見心地になる。
「ね、もっと」
 すぐに離れてしまった唇を強請るように、神威はもう一度キスをせがんだ。
「で、でもっ」
「約束だよ。俺が勝ったら――――からしてくれるって」
 優しく微笑むが、神威の言葉は有無を言わさぬ強さを持っている。
 は戸惑った表情を見せたが、やがて観念したのか、再びふわりと神威の唇にそれをあわせた。今度はわずかに唇を開きそれを受け入れた神威は、誘い出すように舌先での歯列をなぞる。そうすると、もそれに誘われるように、おずおずと舌を伸ばし神威のそれに絡めるのだった。
 まるで夢のようだ――――
 愛する女に求められる事が、これほどまでに喜びに満ちたものだと神威は知らなかった。
 いつも神威から求め、がそれに仕方なく応えるという形で――――しかも必ず最初はは恥ずかしがって拒絶するので、いつも二人の間には闘争が絶えないのだ。
 散々暴れまわって、最終的には神威が力押しでを押し倒す。それはそれで獲物を狩るような楽しさがあっていいのだが、今回の趣向はいつもの物とは何もかも違っていた。
 珍しくその日、神威は武力ではなく知力で勝負しようと言い出したのだ。





「ね……したい」
 後ろから抱きすくめるようにして、の耳元で囁く。ぴしりとの身体が緊張に強張るのを感じながら、神威はちゅっと首筋に口付けを落とした。
「う……あ、」
 直球でぶつけられた欲求不満に、恥ずかしがり屋なは顔を真っ赤にして呻いた。
 したい――――とは、つまり男女の交接を表しているわけで、それを想像するだけでぐるぐると熱が脳を冒して混乱する。
「ねえ、しようよ」
 欲情した吐息がの首筋を撫でる。たったこれだけで、の体温がぐんぐんと上昇するのだ。
 これ以上やると暴れてしまうかもしれない――――
 普段はこのままなし崩し的に行為――――当然、その間に一戦交える事になるのだが――――に及ぶのだが、今日の神威は違っていた。
 ふっとの身体に絡み付いていた拘束を解くと、が怪訝そうな顔で振り返った。その顔に微笑みかけ、傍らのテーブルの上にある箱を掲げる。
「今日はこれで勝負しよう」
 それは黒と白の駒を取り合う――――オセロだった。





 もし、いつもの様に力任せに押し倒していたら、こうは上手くいかなかっただろう――――
 神威はの口付けを受けながら、一人ほくそ笑む。
 オセロなら自分にも勝算があると信じたのか、は意外にも簡単に承諾した。そして神威の『もしも俺が勝ったら、今日はからして欲しい』という約束を、簡単に取り付けたのだ。
 結果はの惜敗。
 は往生際悪くその後も神威の拘束から逃れようと暴れたわけだが、約束を違えるのかと詰め寄ると、途端に大人しくなった。
 そして今や、神威の膝の上――――
 存分に口付けを交わし、名残惜しそうに離れて行く唇を眺めながら、神威はにこりと微笑んだ。
 あくまで主導権はに譲りつつ、
「ね、……しよ?」
 と、快楽の遊戯にを誘ったのだった。




end


以前、戦国で書いた「盤上遊戯」の銀魂版。
神威は色んな意味で欲望に忠実だと思います。
躊躇いとか羞恥とか、何ソレ? みたいな。