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!CAUTION!
名無しだと進めづらかったので、子供に勝手に名前がついてます。
問題ない方のみお進みください。








































揺れる05





 神威よりも薄い桃色の髪に、ルビーのような紅い瞳。
 言われてみれば、二人の遺伝子を継承した正しい姿である。
 それに気がつかなかったのは、息子の顔があまりにも自分にそっくりすぎて、そして神威があまりにも自分の顔に無頓着だったせいだろう。
 神流(かんな)と名づけられたその子供は、オレンジジュースの入ったグラスを傾けたまま、ずっと三角眼で神威を睨み付けていた。
「なんか。実感わかないな」
 頬杖をついた格好で正面の我が子を見やる。
 ついさっきあなたの子供よと言われたばかりでもあるし、まさか自分がすでにあれだけ忌避していた家族を作ってしまっていた事に実感がなかった。
 最初に見た時はだいぶ幼く見えたが、これでもすでに四歳を超えているらしい。神威と別れた時には、すでにのお腹に神流はいたのだが、はその時はまだ気づいていなかったのだそうだ。
「まー、あんだけヤればガキが出来ても不思議じゃないけど」
「ちょっ、子供の前でやめてよ!?」
「大丈夫だよ。どうせ分からない」
 慌てるに反して、神威はじっと神流を眺めたまま、神流も三角眼で睨みすえたまま表情は動かなかった。
「言ってくれれば良かったのに。こんな所で、俺のこと待ってるくらいなら」
「それは……」
 迷いはした。だが、神威に伝える事が出来なかったのは、神威が家族に対して特殊な感情を抱いている事、そして自分がすでに神威に必要とされていなかった事が原因だった。
 だから、言い出せないまま、もしかしたらいつか会いに来てくれるかもしれない、と半ば諦めながら夢のように思っていた。
 神威のプロポーズを待っているというのは、子供のためについた方便だ。父親の事を聞かれるたびにうまい説明が思い浮かばず、いつの間にかそんな話が出来上がってしまっていた。我が子が父を恨まずにいてくれるなら、それでもいいやと放っておいたら、まんまと本人の前でそれをバラされてしまったのだった。
「言ったら喜んでくれた?」
「喜ぶかは分からないけど、もっと早く迎えに来たよ」
「やっぱり……いやだった?」
「そうじゃないけど。俺が……父親とか」
 悪い冗談に聞こえてくる。
 脳裏の中で己の父を思い出すたびに、自分があのハゲと同じ立場になったのかと信じられずにいる。そもそも自分は何もしていない。神流を産み、ここまで育てたのはだ。
 一緒じゃない。そう思った。
 少なくとも自分は、まだハゲのような父親ではない。が身篭るのに遺伝子を提供した、それだけの存在に過ぎない。
 もし親殺しの風習を、神流が引き継いだら自分はどうするだろう。
 答えは決まっている。
 きっと自分は神流を半殺しにする。もしかしたら殺してしまうかもしれない。我が子だからと手を止める事は、父親の自覚が欠けた今の自分には思いつかなかった。
 だが、
はきっと死に物狂いで止めるよね」
「え?」
 きっと二人の間に割って入って、本当に命を賭けてしまうかもしれない。もしかしたら、は我が子を守るかもしれない。その時、自分はどうしたらいいのか……わからなかった。
 母親はいつだって子供の味方。いつだって腹を痛めて産んだ子が愛おしくて仕方がない。
 ぼたぼたとグラスの端からオレンジジュースを零している神流と、あれこれと世話を焼きつつ笑っているを見ていると、記憶の底に閉じ込めたはずの母親の面影が浮かび上がった。
 自分もあんなだったのだろうか……
 よく覚えていない。母の事はいつも、霞ががかったように曖昧で思い出せないから。
「わかったよ」
 神威は呟くと、神流の頭をぽんぽんと叩いた。なにすんだよ、と神流がうっとおしそうにそれを振りほどこうとするが、神威はそれを無視して、
「すぐには馴染めないかもしれないけど、俺の二番目はこいつにあげる。それでどう?」
「神威……」
 はにっこりと、嬉しそうに微笑んだ。
「なんだよ。おい、オレを無視するなー!」
 手の下で暴れる神流の頭を、ぐりぐりと力いっぱい撫でてやる。
 可愛いとはまだ思えないが、いつかもしかしたら、そんな感情を抱くようになるのかもしれない。
がそうするように、お前を愛してやるって言ってるんだよ」
「なっ、なんだよ! オレはお前のことまだパピーだなんて認めてないからな!」
「いいよ、それで」
「そ、それにパピーだなんて、呼ばないからなっ!」
「はは、それでいいって」
「それにそれに! マミーはオレのマミーなんだから、あんまり馴れ馴れしくするなよっ! 将来ケッコンするって約束したし」
「あ、それはダメ」
 神流の頭をぐっと押して、もう一方の手での身体を引き寄せる。
 たかだか四歳の子供に、大人げもなく見せ付けるようにし、
「こーれーはー俺の」
 ちゅっと頬に口付けを落とすと、真っ赤になった神流がうがあと雄たけびをあげて暴れ出した。
 それをケラケラと笑いながら押さえつけて、なんとなくこんなのも悪くないかと思ってしまう。
 がくんと揺れたあの時の心の振動は、寂しさだったのかなと頭の先で考え――――笑い声にかき消されるように、神威はそれを忘れた。




end


ツンデレの子はやっぱつんでれでした。
ヤンデレよりましか。
きっと開き直った神威は一人っ子は可哀想だからとか、
適当な理由をつけて幸せ家族計画を推し進めるんだと思います(笑)
これにて「揺れる」シリーズ完結です。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!