揺れる02
不器用と呼ぶにはあまりに悲しい習性なのだろう。
別れようと口にした時、の表情は変わらなかったが、神威もまたいつもの微笑を崩すことはなかった。
感情が欠如しているとは思わないが、重度に鈍感なのだと思う。おそらくどんなことであっても、常態のまま呑み込めてしまうのだ。
「今朝の便で帰ったぜ」
素っ気なく告げられたの帰郷も、ふーんと関心がないような顔で聞き流した。
背後に立つ阿伏兎が苛立たしげな空気を醸したので、てっきり噛み付いてくるかと思いきや、阿伏兎は舌打ちをひとつするだけで、さっさと団長室から出て行ってしまった。
人の気配が消えて、小さくため息をつく。
窓の外に広がるのは、有象無象の住まう無数の星々。その内のいくつかは星を行き交う宇宙船やシャトルなのかもしれないが、この窓辺からはどれも同じに見える。
広大な宇宙を眺めながら思う。
もし、あの時が泣いて拒みでもしたら、自分はどうしただろうか。
答えは決まっている。
変わらない。
女の涙に絆されるような惰弱な精神は持ち合わせていないし、が泣いて懇願するような姿は想像できなかった。
想像通り――――いや、想像よりもより簡潔な言葉では別れを承諾した。むしろ阿伏兎の方が煩かったくらいだ。
阿伏兎はなぜだどうしてだと詰め寄ってきたが、は一度も理由を聞かなかった。
神威の気持ちを察していたわけではないと思う。
おそらくの中の何か納得のいく理由で、合意したのだろう。
理由を聞かれないのは面倒がなくて助かった分、少しだけ肩透かしを食らった。まぁそれだけなのだけれど、女はああいう時、煩いくらいに取り乱したり泣きついたりするものではないのかと思っていたのだ。
『ああ、うん』
それだけで、二人の関係は他人へと戻った。
何度も睦みあったことも、繰り返された愛の言葉もまるで初めから無かったかのように、ゼロになった。
きっとその内、記憶からも消える。
思い出を大切にとっておく趣味はない。
もし女が欲しくなればどこかでまた捕まえればいいし、乾くのなら気晴らしにどこかの星を潰してきたっていい。
自由だ。
何も変わらない。
好きな時に食らって、殺して、寝て、抱いて――――ただの獣に戻るだけ。
なのに。
「……」
窓の先の光を指先で撫でた瞬間、思わず名を呼んでいた。
瞬間、ガクリと視界が揺れる。
まるで階段を踏み外したように。
振動に驚いて、状況をうまく飲み込めず呆けた顔の自分がガラス窓に映っている。物凄く間抜けな面だと他人事のように思った。
そんな風に思うのは、きっとその心の振動を主観的に捉えたくなくて――――ふいに心の内に逃げたのだと、それさえも認めたくなくて神威は窓の先の光を指先で押しつぶした。
end
どうして別るのかちゃんとした理由はあるけれど、
説明する機会もなく別れちゃった二人。
ある意味、通じていたんですかね。
一応、続きます。