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 阿伏兎にみっともないと言われたから、がっつくのを止めた。
 追い回すと怖がるから、近づきたくても知らない振りをした。
 触りたいけど我慢した。
 食べたいけど空腹を堪えた。
 なのに――――
 ねえ、どうして君は……




優しくするから





「なんで目、そらすの?」
 捉われる瞬間に目を逸らしたのを咎められ、はびくりと肩を震わせた。
 ううん、別にともごもご口の中で言い訳しながら、視線は神威を通り過ぎて虚空を行ったり来たり泳いでいる。
 決して目を合わせようとしない。
 びくびくと震える肩からの緊張が伝わる。
 ふうん、と神威は間延びした声を返して、目を細めた。
 きっとここは退くべきなのだろう。は怖がっている。まるで蛇に睨まれた蛙みたいに固まって、神威が通り過ぎてくれる事を祈っているのだ。
 今まで神威がにした事を思えば、それは当然の反応かもしれない。半ば強引に組み伏せて何度も無理やり貫いて、トラウマと恐怖がしっかり植付けられているのだから。
 だが、確かに自分が元凶ではあるけれど、こんな反応をされて傷つかないわけがない。
 ただ純粋に好きなのだ。触れたいし、近づきたいし、繋がりたいし、求め合いたい。
 罪悪感はあっても単純な欲求の前でそれはどんどん薄れてしまう。
 優しくしたいと思う一方で、脅える獲物を嬲ってみたいと本能が首をもたげる。
「ねえ……俺が怖い?」
 すっと顔を寄せて、至近距離での顔を覗き込んだ。
 逃げそうになる視線と身体を逃がさぬよう、両手を頬に添えて退路を断つ。
 鼻先がぶつかりそうなほど顔を寄せて、
「俺が憎い?」
「え……、あ」
 の真紅の双眸に恐怖の色が浮かんで揺れる。
「俺が恐ろしい?」
「やめ……」
「俺を殺したい? 俺から逃げたい? 俺が――――
 キライ?
 呟いた瞬間、思いのほか自分自身がショックを受けていた。まるで咲ききる前に寒さに負けた花のように、しゅるしゅるとこうべを垂れて萎んでいく。満たされていた自信が流れ去って、人恋しさと寂しさと不安がごっちゃになる。
「ねえ」
 神威は頬に添えた手を放し、ゆっくりとの背に腕を回した。
 は半ばパニックになりかけて拘束を解こうと抵抗したが、それを力づくで押し込めて神威はの身体を抱きしめる。
 久しく感じていなかった柔らかな匂いに安堵する反面、胸が締め付けられて苦しくなる。
「俺はが好きだよ」
 腕の中のがびくりと身体を震わせる。
「好き。好き。好き。好き。愛してる。好き。大好き。好き」
 何度も何度も言葉にした。
 今までだって乱暴をしながらも、その言葉だけは繰り返していた。
 それがどんなににとってひどい行為でも、その想いは同じ――――ただ純粋に好きでしかない。
 その表現の仕方をよく知らない。
 力まかせにぶつけて傷つけて、怖がらせて、でも溢れ出した感情に振り回されてまた傷つけて。
 の傷だらけの背を見てようやく目が覚めて、怖がらせないようにと一歩退いたのに、結局は堪えても欲しくなってしまう。
 触れたい。さわりたい。抱きしめたい。繋がりたい。
「ねえ……怖いことしないよ」
 恐る恐る顔を上げたを、安心させるように微笑み返して、
「今度はちゃんと優しくするから」




end


意味不明単発モノ。
なんかヒロインが神威のことを恐れまくってます。
一体どんなことしたんでしょうね(笑)