この話には性的・暴力的な表現が含まれています。
モブ女性との絡みがあります。
苦手な方はお戻りください。
だからさ。
食い物は粗末にしないのが信条なんだよ。
修羅場ニ至ッタ経緯
正直に言うならば、特段何も考えていなかった。
皿の上に出された食事を口に放り込んで咀嚼するように、そこに女が居たから抱いた。
別にその辺に歩いていた女を襲ったわけではないし、それ用に差し出された女だったから、用途通りの使い方をしただけだ。
もし、神威がこの後に起こる事 ――――
そう、彼の恋人が、この行為をただの性欲処理と捉えずにひどく不愉快極まりないものだと感じると知っていたら、そしてそれが原因で半殺しの目に会うことを予見していたら、彼はきっと女を抱かなかった。
否 ――――
あえて、の悋気を煽りたいという詰まらない理由で女を抱いたかもしれないか、それならもう少しこの行為を楽しんだかもしれない。
喩えこれが空気を食むような行為であっても、この後にが ――――
いつも神威の独り相撲のように向き合うことをしない彼女が、感情を露わにして荒れ狂うだろうと想像するだけで、きっと可笑しくて楽しくて仕方が無かったに違いない。
だが、この時の神威はそんな想像など及ばず、ただ出された身体を無意識に近い杜撰さで咀嚼していただけである。
女が啼いて、絶頂を迎える。それなりの快楽はあれど、やはり見知らぬ女など退屈なだけだ。
善がらせても、イかせても、何の感慨も無ければ愛おしさも浮かばない。に少し似ているかも、とこの女を選んだがやはり偽者は偽者だ。
接待なんて断ってさっさと帰れば良かったな……。にも土産買ってすぐ帰るって言っちゃったし。
そんな事をぼんやりと考えていると、ふと神威の脳裏に妙案が閃いた。
神威は女からするりと離れると、一糸纏わぬ姿のまま、すたすたと部屋の端に向かった。突如離れた神威に女が怪訝な表情を向ける。
神威は自分の荷物を漁ると、中から色鮮やかな布を取り出しそれを女に向かって投げた。
「それ着て」
にこりと微笑んだ神威の、どこか有無を言わさぬ迫力に押され、女は素肌のまま薄布を纏った。
特産品のシルクで作らせた、光沢のあるチャイナドレス。のサイズに合わせて作らせたが、女もそれなりに似合っている。
「おー、似合う、似合う」
神威はぱちぱちと手を叩きながら賛辞を送った。上機嫌のままベッドに戻ると、女の身体を抱き寄せて唇を重ねる。
先ほどとは打って変わったような優しい口付けに、女は困惑しながらも、もしや若き春雨の団長が自分の事を気に入ってくれたのではないかと思った。いつか見た映画のように、売春婦から上り詰めるシンデレラ・ストーリーが自分に訪れたのではないかと。
だが、神威はにこりと微笑みかけると、
「これからお前は身代わりだよ。俺がいいって言うまで、一言も口を利いちゃダメだからね?」
「……んっ、……」
ひどく緩慢で、真綿で首を絞めるようなと形容するのにそれは相応しかった。
無理やりこじ開けるような事はせず、むしろたっぷりと時間をかけて女が焦れるのを待つような愛撫に、女は息も絶え絶えになりながら耐えた。
一言も口を利いてはいけない ――――
その約束のせいで、嬌声さえ上げることが出来ない。初めは冗談かと思ったが、先ほどわずかに声を上げた瞬間、氷のように冷たい顔で首を絞められた。
『言ったよね? 口を利くなって。黙ってうつぶせに寝てろよ』
声を上げるな。顔も見せるな。
ただ黙って、血の通った肉の人形であれと、そう言ったのだ。
その言葉を耳にした瞬間、女は氷を胃に押し込められたように身体を凍らせた。
自分のことを、人だなどと思っていない。本当に身代わりに過ぎないのだ。もし少しでも神威の気に障る事をすれば、この男は自分の顔を削いで喉を潰すかもしれない。そして半死のマネキンになった自分を、満足そうに抱くかもしれない。耳元で繰り返されるという女の代わりに。
もはや女には恐怖しかなかった。両手で懸命に口を塞ぎ、神威の与える優しく、狂気的な愛撫に必死に耐える。
「。好きだよ……、」
神威の熱い吐息と、柔らかな唇が背中を伝う。幾度も、幾度も、愛おしそうに、自分の痕を残すように、名を呼んで、所有の証をつけて、愛の言葉を囁き続ける。
商売女の自分を抱いた時は準備さえろくにないまま貫いたのに、“”の中へはなかなか入ろうとしない。背後に当たる神威の熱が彼の限界を伝えるが、それでもぎりぎりまでへの愛撫を止めようとしない。
それほどまでに愛される“”に興味と ――――
、純粋に嫉妬が沸いた。
そして思わず、神威、と。小さく男の名を呼んだ。
「阿伏兎。後始末しておいてよ」
「ありゃ、よくありませんでしたか」
それなりに上玉を用意したつもりだったが、返り血を浴びた神威の姿を見てお気に召さなかったのだと理解する。ひょいと部屋の中を覗き込めば死臭に満ちた酷い有様だ。
まあ高確率でこうなるだろうと予測していた阿伏兎にとって、起こるべくして起こった結果と言えなくもないが。
「シャワーぐらい浴びってたらどうだ。殺されるぜ?」
そのまま戻ろうとする神威の背中に声をかけると、くっと男は喉の奥で笑った。
「上等」
ああ、普通に恋人が恋しくなったのね。
それでもわざわざ恋人を怒らせに帰るなんて阿伏兎には理解できなきのだが、それが彼らの常であるので今更疑問に思うのは野暮というものだ。
end
殺されるほど愛されたいのか、愛されるほど殺されたいのか。
わざわざ修羅場の原因作って帰る辺り、いい性格してます。