この話には暴力的な表現が含まれています。
ヒロインがドS傾向にあります。
苦手な方はお戻りください。
修羅場之後
「私はね、分相応という言葉を大切だと思っている」
血のように真っ赤なルビーの瞳が見下すように見開かれた。
「身を弁えない言動は己が災禍に必ず繋がる。だから、下克上などは決して成功しないし、犬は犬のまま主人に牙を剥くべきではないと思う」
蒼穹のように澄んだサファイアの瞳がその視線を、真っ直ぐ真下から受け止める。
私はね、と桜色の唇が言葉を紡ぐのを、神威はただじっと見蕩れていた。
「主導権を握りたいと思っているわけじゃない。あなたがドSだと言うのならドMに甘んじてやりましょう。飼い主になりたいなら犬にでも猫にでもなってあげる。首輪でも鎖でもお気に召すまま」
でもね、と艶やかな唇が声を発し、の長い睫毛が目の下に陰を落とす。
「一つだけ我慢がならない事があるの」
それでの長い口上は閉じた。
ベッドに括り付けられた神威は、先を促すように声をかけたつもりだったが、わずかに開いた唇からは空気が漏れるだけだった。クスリのせいで喉をやられている。ついでに四肢に力が入らない。
いったいどんな薬物を使ったかは知らないが、宇宙最強と誉れ高き男は恋人にベッドにくくりつけられて、馬乗りにされるという状況にあった。
だが――――神威の胸中に焦りや憤り、ましてや恐怖などあるはずがない。あるのは唯々、先が楽しみで楽しみで仕方がない、期待と愉悦だけである。
今のは正常ではない。悋気ですっかりキレてしまっているのだ。
相手を凍傷に至らしめるような激しい冷気を、全身に纏っている。そのくせ瞳の光は躍動的で燃え盛る業火か迸る鮮血のようだった。
神威は今、口が利けない事を惜しく思った。
もし口が自由だったら、さらにを煽り逆上させるような言葉を選んだろう。
決して被虐趣味があるのではない。
に虐げられる事に興奮しているのではなく、が自分の言動によってリミッターを外し感情のボルテージをガンガン高めていく所を夢想して欲情している。普段、決して見せることのないような残忍な顔で、独占欲と嫉妬と憤激と苛立ちで爆発しそうな瞬間を見てみたいのだ。
だから、どちらかと言えば彼は嗜虐的嗜好を持つ。
神威は期待と愉悦を両の目に湛えての言葉を待った。
ねえ、と形の良い唇が呼びかけ、
「自分のモノだと言うのなら、もっと上手に飼ってよね」
の指先がぐっと神威の腕を握り締める。のじれったい怒りを表すように、ぎりぎりと五本の爪がめり込んでいく。
「独裁者の顔を止めないで。いつも私の上にいて。絶対的な支配の手を緩めないで」
ゆっくりと神威の眼前には顔を寄せ、囁くように耳元に唇を寄せる。
かぷりとは耳朶を甘噛みすると、
「私だけの支配者でいて」
そのまま力を込めて、柔らかな部分を切り裂いた。
びりっと音がしたかどうかは分からないが、血が飛んだのは確かだ。それはわずかだが神威の頬との服の胸のあたりを汚した。そして、唇も。
唇を血で濡らしながら、殺意にまで昂じた悋気を、まるで光線のようにの両眼が放つ。
でも、と言葉を区切り、はぺろりと唇を舐め上げた。
「どうしたらお願いを聞いてもらえるかワカラナイの。神威に物理的な苦痛は利かないでしょう? 精神的なものも、あまり効果があると思えない。けれど、まだこっちの方がマシだと思って」
パタン。
はサイドテーブルに置かれた分厚い本を手に取ると、栞を挿した場所を開いて掲げた。神威の位置から表紙に綴られたタイトルが目に入る。『超絶催眠技巧』――――なんとも嘘くさい名だ。
ふふっとが笑った。
「私、こういうの実は得意なんだよね。この前、阿伏兎にかけたら成功したし。どーしよっかなー……軽くEDにでもしてやってもいいんだけど」
それは止めてくれ、と神威は声にならない声で訴えた。大抵の事は受け止められるが、それではを愛する事も出来ない。。
忙しく動く神威の目を見て、は冗談だよっと嬉しそうに笑った。
ちゅっと頬に口付けすると、両目を大きく見開いて命じる。
まるで支配関係が逆転したような女王の顔で、
「私を絶対に愛しなさい」
end
相変わらずヒロインがバイオレンスで申し訳ない。
神威は修羅場すらむしろ楽しんでるイメージです。