この話には暴力的な表現が含まれています。
ヒロインがドS傾向にあります。
苦手な方はお戻りください。
すっとわずかに目を細めただけで、心が石のように硬化する。
感情と言うものがごっそりこそげ落ち、無機質で閉ざした存在へと変わる。
それを割って中に入ってみたい気もするが、きっと触れただけでばらばらに切り裂かれてしまうだろう。まるでヤマアラシのように全身が刃物だ。
見えない刃を体中に纏って、は硬化した顔でじっと神威を見下ろしていた。
言葉はない。詰るような事も、恨み言も、泣き落としも、文句も、何もない。
ただ冷たく刺すような視線で射抜くばかりである。
まずいかな――――
神威は叩きつけられ粉々になった瓦礫を押しのけながら、ゆっくりと身を起こした。
あばらが何本かいっている。たった一撃で。いくら至近距離から不意を突いたといえ、鍛え抜かれた神威の骨を粉々に粉砕したのだ。
鼻腔から垂れた血をぺろりと舐め上げて、神威は思わず笑みが浮かぶのを止められなかった。
怒っているのでも悲しんでいるのでもないの無表情に、思わず歓声を上げたくなった。そんな事をしたら今度こそ洒落にならない事が起こると知りながら、破滅的な思考を止められない。
嗚呼、この修羅場をどうやって切り抜けようか――――?
修羅場
理由は至極簡単な事だった。
一仕事終えた後の労いに、女が付いて来たと言うだけのこと。
戦艦に戻ればがいるのだし女に飢えていたわけではないが、特に断る理由もなかったため与えられた女をそのまま抱いた。ただの性欲処理としての行為は実にあっさりとしていて、顔と名前が付けられた個人を抱いたという認識はない。ただ、自慰の延長に女の肉を利用しただけなのだ。
だから彼にしてみれば、それは皿の上に盛られた飯を適当に口に放り込んだだけに過ぎない。満腹感はあるが、どんな料理だったとか、味がどうだったとかはいちいち覚えていないのだ。
自分で食材を選び、調理法方にまで凝った料理とは明らかに異なる。咀嚼も嚥下もおざなりな、空気を食むような行為。
だが――――
は神威の前にしゃがみ込むと、その瞳を覗き込むようにして顔を寄せた。の紅い双眸に自分の顔が映される――――と思いきや、突如握り固めた拳が神威の鼻柱を砕くように叩き込まれていた。
勢いを込めて、そのまま地面に穴を穿つように打ち落とされる。砕けた瓦礫がぱらぱらと遠くの地面に落ちる。
ぼたぼたと血で顔面を汚した神威を、は覆い被さるように馬なりになって覗き込んでいた。少しだけ小首を傾げて見せる。
そして、
「ねえ、私は一体誰のもの?」
硬化した石のような瞳が、じっと神威を見下ろしている。
ハハ……、と神威は弱弱しい乾いた笑いを上げた。鼻から流れる血が口の中に流れ込むのも厭わず、口を大きく開いて告げる。
「は俺のものだよ」
瞬間、の腰にぶら下がった刀が剣閃を放った。
鼻をそぎ落とすような勢いで空を凪いだそれは、しかし一滴の血も流さず神威の薄紅色の髪をわずかに掠めただけだった。
「私の腕は? 口は? 足は? 身体は?」
「ゼンブ俺のものだよ。髪の毛一本、細胞一つだって俺のものだ」
だから――――安心しなよ。
切れた唇を緩めてわずかに微笑んで見せると、初めては感情らしいものを見せた。
それは――――とても忌々しそうな、殺気に満ち満ちた顔で、神威は思わず笑い声を上げてしまった。
その瞬間、煩いと言うようにの腕が振り下ろされる。
その痛みを感じながら、やはり神威は笑わずにはいられなかった。
まさか自分が――――にこんな顔をさせられるなんて。制御が出来ないほどの殺意と嫉妬を、力いっぱいぶつけてくるとは。
「自分のものだって言うんなら、もっと上手に飼ってよね」
は忌々しそうに吐き捨てると、食いちぎらんほどの勢いで深く神威の首筋に牙を立てた。
end
ヒロインがバイオレンスで申し訳ない。
夜兎同士の修羅場というと、
このくらいデンジャラスな気がしてならない。