このシリーズには、狂愛、エロ、グロ、暴力的な表現が含まれます。
神威が病んでます。ヒロインが狂ってます。救いはありません。
ダルマ、四肢切断という言葉に嫌悪感を催される方は、閲覧をご遠慮ください。
問題のない方のみどうぞ。
ソコナシ06
「……くびきり、りんね、ねくろふぃりあ、あいよく、くぐつ、つみとばつ……」
狂ったの一人しりとりは、終わりと言うものを知らない。“ん”を決して選ばず、言葉に困れば、どんなに無茶な単語もつなげてしまうのだから、終わりなど訪れはしないのだろう。
阿伏兎はため息と共に、臓物が散らばった部屋をぐるりと眺めた。
「どうして殺すのに、わざわざハラワタをぶち撒けないと気がすまないんだろうねぇ」
殺すなら首の骨を折るのだって、心臓を一突きにするのだって構わないのだ。わざわざ袋の中身をばら撒くような真似などしなくていいはずなのに、ここでの殺しは決まって残虐性を増す。
殺した男たちにどんな恨みがあったのか知らないが、少なくともこういうネコがねずみを甚振るような殺し方は、本来の神威のそれとはかけ離れていた。
それにはきっと意味がある。だが、阿伏兎はその意味を知ろうなどと思わないし、勝手な憶測を与えることもしない。あれは端から自分の理解を超えているのだと、諦めている。
知ったかぶりで自分の常識を当てはめようものなら、どんなお叱りを受けるか分からず、阿伏兎は独り肩をすくめた。
「……つわり、りたるだんど、どくきのこ、ころしや、やじゅう、うじむし、しにがみ……」
リタルダンドってなんだ、とのしりとりを片耳で聞きつつ、阿伏兎は生き物の首だったものをひょいと持ち上げる。
顔はぐちゃぐちゃに潰されているが、なんども拳を叩き込まれたのではなく、強烈な一撃をぶち込まれたのだろうと推理する。本来、凹凸のあるべき顔の造詣が、まるで鉄球で押しつぶされたように凹んでいる。生身の拳でこんな事をやってのけるのだから、それはそれで見事だ。
「しかし、お前さんも人が悪いな。始末するこっちの身にもなりやがれ」
ぽいっと首を壁際のゴミ袋に放り込み、阿伏兎はちらりとの方を見やった。
は答えない。
延々と狂ったしりとりを続けている。
阿伏兎はからの返答を諦め、肩に乗せたモップで大雑把に部屋の清掃を始めた。
床の血をある程度洗い流した後、管理室の扉が開き、薄っぺらいスーツを着た男が現れた。首の名札はもう下げていない。今日で彼はお払い箱なのだ。
「あ、あの……その、お世話に、なりました」
律儀な性格なのか、わざわざ阿伏兎に挨拶するためにここにやって来たらしい。おう、と阿伏兎は短く応えた。
「アンタも災難だったなァ。ま、命があるだけでもめっけもんだと思って、次の仕事を探してくれ」
「はあ……」
納得も理解もいっていないという顔をしているが、阿伏兎はそれをまるきり無視した。
正直なところ、阿伏兎にとっても彼の離職は想定外であるし、痛いところである。せっかく見つけた管理人。それをたかだか数週間で失い、また新たに募集をかけねばならないのかと思うと、ため息しか出てこない。
しかも今回は、今までのケースとは違う。こちら側の事情で管理人をクビにしなければならないのだ。
「さあ、アンタはもう部外者だぜ。とっととこっから出ていってくれ」
追い出すようにモップの先を向けると、管理人だった男は戸惑いながら上目遣いに阿伏兎を見た。
そして、
「あの……ひとつだけ教えてくれませんか?」
問う。
阿伏兎が応じるよりも早く男の乾いた唇が疑問を口にしていた。
黒いゴミ袋をおどおどした眼で見やり、
「なぜこの部屋で人が死んだのでしょう?」
沈黙が二人の間を支配する。
事件と呼ぶにはあまりにも日常茶飯事過ぎるが、人が死んでいる以上、事件と呼ぶのが相応しいだろう。
事件――――つまり、の安置された無菌室に、細切れにされた男の死体が挙がったのは昨晩の事である。管理人の業務時間を過ぎているので、それが正確に何時の事であったかは分からないが、はっきりしている事がいくつか。
この部屋で男が一人死に、神威が殺したという実にシンプルな事実。
原形を留めないほどバラバラにされているので、男の身元ははっきりとしないのだが、それは大して重要な事ではなかった。
というより、神威が男をこの部屋で殺したというその事実だけで、推理の余地などない。それがすべてを物語っている。
だが、先刻解雇を言い渡された男にしてみれば、不思議でならなかったのだ。
この部屋に至るまでいくつもの鍵が侵入者を遮る。そもそも、この部屋の存在を知っていた人間がどれだけこの船にいただろう。
殺されたという事実より、いくつもの障害を越えこの部屋に至った事の方が不可思議なのだ。自身が鍵を管理していた管理人であるならば尚更、不思議でならない。
誰に殺されたとか、なぜ殺されたとか、どうやって殺されたと言うことよりも、どうしてここで殺されたのか?
疑問を口にしてしばしの間。やがて阿伏兎は面倒くさそうにがりがりと頭をかき、
「アンタそりゃ余計なおせっかいだぜ? 世の中にはな、気づいちゃいけないことがあるんだよ」
end
次回、理由。