このシリーズには、狂愛、エロ、グロ、暴力的な表現が含まれます。
神威が病んでます。ヒロインが狂ってます。救いはありません。
ダルマ、四肢切断という言葉に嫌悪感を催される方は、閲覧をご遠慮ください。
あと今回は内容が下品です。
問題のない方のみどうぞ。
ハコナシ02
惨劇の場に居合わせたわけではないが、ここで何があったのか阿伏兎は正確に理解した。
部屋中に飛び跳ねた肉片は、かき集めたところでとてもこれが生き物の集まりなのだとは思えないだろう。100g八十円のばら肉を撒き散らしたみたいだ。
「アンタなァ……」
ため息しか出なかった。
「今月で何人目だ? 三人目だぞ。いい加減にしてくれ」
苦言を口にするが、当の本人はそうだっけ? とそ知らぬ顔をしている。
この男にとって殺した者の数など記憶に留めるに値しない。強者でもなく、闘争欲もないような者達は、殺したところで何の印象も残さないのだ。
はぁっと阿伏兎はため息をついた。
「自覚してくださいよ、団長。アンタがここには誰も入れるなって言ったんだ。つまり、ここで誰かくたばったら誰が死体を片付けるんだ? 俺か?」
「うん。よろしく」
「よろしくじゃねェよ、すっとこどっこい。管理人は殺さないって約束したじゃねェか」
この苦言にも、神威はそうだっけ? とそ知らぬ顔で流した。
この部屋での諸々の雑務が発生するから、外部から管理人を雇っているのだ。それもこれも誰もここには入れたくないという、神威の我侭のせいである。だから、神威に阿伏兎、そして完全に部外者である管理人の三人だけが、ここへ入れるようにした。
だというのに、一ヶ月も経たないうちに、神威は雇った管理人たちを次々に殺してしまう。
あいつに素手で触っただとか、の事をやらしい目で見ただとか、言いがかりにも近い理由で、易々と殺してしまうのである。
「で、今度は」
ため息混じりに尋ねると、
「でヌいてたんだよ、あの変態」
と、最悪な答えが返ってきた。
神威はモニター横のデスクの引き出しを乱暴に引っ張ると、中に詰まった無数の画用紙を床に散乱させた。
「あんだこりゃ」
両手足のない女と絡み合う男の絵。男に顔はないが、ぶよぶよした体形はどうも神威のものではない。どちらかというと肉片になった管理人に似ている。
「こいつさぁ、仕事中を眺めてヤるコトばっかり考えてたんだね。俺がいない間、ずっと視姦してたなんて虫唾が走るよ」
この変態が、とケタケタ笑いながら罵り、神威は床にへばりついた肉片をぐりぐりと靴の裏で踏み潰した。
阿伏兎は咎めるような目を神威に向けていたが、何も言わなかった。
「ああでもさ、殺す前に見せ付けてやれば良かったかな? こいつの目の前で、俺とが繋がるところ」
「……必要ないだろ。アンタらがお楽しみの間、ずっとこいつは隣室待機だ。アンタがあんあん啼かせてるのを、複雑な気持ちで聞いてただろうよ」
「あっそ」
もしかしたらその隣室待機のせいで、管理人が変な性癖に目覚めてしまったのかもしれないが、今となっては想像の域を超えなかった。少なくとも次回からは、アブノーマル以上のヤツの採用はなしだ、と阿伏兎は心に決める。
「で、目の前でこんなスプラッタが広がって、お嬢さんの様子は?」
「いつも通りだよ」
神威はにこにこと笑いながら、ガラス窓の向こうへ続く扉を開いた。
微かに歌声が聞こえる。
何の歌かは知らないが、穏やかな子守唄のようなメロディだ。
床の上を走る太いケーブルを跨いで、阿伏兎は病院にあるような白い簡易ベッドに近づいた。
クリスタルの結晶のような透明な六面体の板で覆われたそれ。今は正面の板が外されての身体は露わになっている。
養分がよく行き渡っているのか、四肢が切断されているにも関わらず、艶やかな肌をしていてそれが逆に不気味に見えた。
桜色の唇が歌を紡ぎ、リズムと一緒に艶やかな髪が揺れる。
「よう、」
声をかけると、は歌をやめ、ゆっくりと紅い瞳が阿伏兎の顔に向けられた。
「阿伏兎、久しぶり」
まるで廊下やラウンジで偶然出会った時のような、ごく普通の言葉で応えた。
だが、阿伏兎はその言葉に表情を暗くさせる。
「嬉しい。会いに来てくれたの?」
「……まあな」
「神威がひどいんだよ。私をこんな所に閉じ込めて。私だって自由に出歩きたいよ」
「……そうか」
「ねえ、阿伏兎。海に連れてってよ。私、本物の海って見たことがないの。ねえ、お願い」
「それは……」
言葉に詰まる。
ちらりと振り返り神威の笑顔を確認すると、阿伏兎は首を横に振った。
「今度な。今日は駄目だぜ。外は大雨だ」
するとはえぇと盛大に不満の声を上げ、子供のように唇を尖らせた。
「嘘だよ。外は晴れてるよ。もういい、自分で行くから。ねぇ、私の足を探して。ねえ、右足がないの。ねえ」
ねえねえ、とせがむを前に阿伏兎はぐっと唇を噛み締めた。
紅い瞳が部屋中を忙しく走り回る。
ない、ない、私の足がない。ねえ、右足がないよ。左足も。ねえ、私の手。私の手、どこにいっちゃったの? 阿伏兎が隠しちゃったの? お願い、返して。あれがないと、私足が探せない。ねえ、ヤダよ。ヤダヤダヤダヤダ――――
ついに泣き出してしまったを前に、阿伏兎は何も出来ないでいる。ただ呆然と立ち尽くし、が自分の失った手足を探すのを、が緩やかに狂っていくのを、絶望的な心地で見つめている。
やがて見ていられなくなったのか、何やってるんだよ、と神威が阿伏兎を押しのけてベッド際に立った。
「神威、神威。足が無い。私の手が無いの。ねぇ、探して。お願い……、お願い……」
「足なんて無くったっていいだろ? 手も要らないよ。ここにいれば俺とずっと一緒にいられるんだから。ね、要らないでしょ?」
ぼろぼろと涙を零すの身体を抱きすくめ、子供に言い聞かせるようにそっと囁く。
「でも、でも……」
「じゃあ、海には今度俺が連れてってあげるよ。だから今日は大人しくしてて、ね?」
「ほんとう……?」
「ホント。約束」
指きりの代わりに、神威は顔を寄せると唇が重なりそうな距離で、睫毛と睫毛を交差させてパタパタと瞬いて見せた。バタフライキスって言うんだよ、としたり顔で神威が言った。
そして、今度はちゃんとキスをしようと顔を寄せて、ふと背後に佇む異質な存在に一瞥をくれる。
出て行け、と氷のような双眸が告げる。
阿伏兎ははいはい、と呆れたような表情を作ると、何も言わずに背を向けた。
決して口には出さないが、誰が好き好んでこんな薄気味悪い場所にいるかと胸中で毒づく。
少し目を凝らせば血肉が視界に入るような場所で、誰が狂人たちの番う所を見たいものか。
お前らみんな狂ってやがる――――
end
肉片になったのは1話のモブの前の管理人。
1話より少し前のお話です。
なんというか、色々狂わせててごめんなさい。